エレメント 【2003,2004,2005】

アメリカ人の“遊びゴコロ”が創造した新感覚SUV

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ライバル不在のSUV。発想・生産はアメリカ

 ホンダは、スポーツカーに限らず「自分たちが欲しいクルマ」を作ることに長けたアイデア集団だ。ホンダ4輪車の最初の作品だった「Sシリーズ」をはじめ、「N360」、「シビック」など「既存概念に捕われない自由な発想で作り上げた魅力的なクルマ」は枚挙にいとまがない。2003年にデビューしたエレメントもその1台である。

 エレメントは、センターピラーレス構造と両側観音開きのサイドアクセスドアを採用。防水性に優れた室内に10フィートのロングサーフボードが積める、ユニークなスタイリングの新価値SUVである。それまでの“自由発想ホンダ車”と違う点は、開発が日本ではなく北米で行われ、生産も米国オハイオ州イーストリバティ工場で行われる点だった。つまりエレメントは、日本では輸入車。ホンダのモノ作りの“遊びゴコロ”がグローバルに広がっていることを示す存在だった。

イメージは“ライフガードステーション”。タフで頼りになる存在

 エレメントは、ドアを開いた時の圧倒的な開放感と、閉じた時の居心地のいい居住空間をめざし、全体のイメージは、アメリカの若者にとって自由な生き方を象徴する憧れの対象「ライフガードステーション」をイメージしていた。ライフガードステーションとは、ライフセーバーがスイマーやサーファーを見守る海岸の小屋。大自然で遊ぶシーンで、頼りになる存在を意味する。

 エレメントのユニークな点は、若者をユーザーターゲットにしながらスポーティな走行性を追いかけていない点だった。それ以上に道具としての使い勝手や、持つことで生まれる生活の広がりを重視していた。
 スタイリングは無骨な印象。流麗とかスタイリッシュという形容詞が似合わないボクシーな2BOXデザインでまとめ、ボディ下部には新開発の樹脂製クラディング(無塗装)を採用。少々こすっても傷にならず、傷がついても目立たない工夫を施していた。ボディサイズは全長4300mm、全幅1815mm、全高1790mm。米国開発ながら日本でも持て余さない設定とされていた。

 パワーユニットは排気量2354ccの直4DOHC16V(160ps/22.2kg・m)。トランスミッションは4速AT。駆動方式は通常はFFで走行し、雪道など滑りやすい路面状況では4WDに自動的に切り替わるリアルタイム4WD。最低地上高を175mm確保することで悪路での走破性に考慮していた。

サイドドアは観音開き。開口部は超大型。室内フレキシブル設計

 エレメントの個性はドアにあった。サイドドアは観音開き式。前述のようにセンターピラーレス構造ということもあって、ドア開口部は高さ1140mm、幅1550mmと超大型。左右とも開け放つと開放感たっぷり。かさ張る大型の遊び道具を積み込むにも便利だった。
 リアゲートにもこだわっていた。リアゲートは上下2分割式クラムシェル型。荷物の出し入れが容易なだけでなく、ベンチのようにロアゲートに腰掛けることができ、のんびりと周囲の景色を眺めるのに最適だった。

 キャビンはタフ&フレキシブルな設計。フロアは汚れたままの道具を積むのも気にならない水ぶき可能なワイパブル仕様。シート表皮も防水加工済みでルーフライニングは撥水加工済みだった。フロア面を低床フラットに仕上げていたこともあり、室内スペースは広く使い勝手はハイレベル。跳ね上げ格納式の後席を畳むと、何でも積めるフリー空間が生まれた。また前後席はフルフラット機構付き。遊びのフィールドでくつろぐ“秘密基地”としても便利だった。
 ボディカラーは全5色。サンセットオレンジやガラパゴスグリーンなど鮮やかな色とクラディングパネルとのコントラストが、独特の雰囲気を生んだ。

 エレメントは、アクティブなライフシーンをサポートする頼りになる相棒だった。走りもトルクフルなエンジンによって力強かった。価格は259万円。内容を考えるとリーズナブルな設定だった。しかし日本での販売は苦戦する。時代を1歩進みすぎていたのだろう。エレメントをフルに使いこなすほど遊びに長けたユーザーは少数派だったのだ。日本では2005年に販売を中止する。しかしアメリカ市場では熱烈な支持を受け2011年まで販売。その遊びのスピリットが本物であることを証明した。