ジクウ(コンセプトカー) 【2003】

日産創立70周年/江戸開府400年を記念したメモリアル

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造形モチーフは1935年製クラシックモデル

 第37回東京モーターショーにカルロス・ゴーンCEOのドライブでステージ上に登場した「ジクウ」は、2003年で創立70周年を迎えた日産のメモリアルモデルだった。ゴーン氏は「日産らしい独自性あふれるこれまでの歴史と、未来に向けた前向きな姿勢に一貫して宿る意気込みを表現した」とジクウを紹介。ジクウは創業間もない1935年に登場したダットサン・ロードスターをモチーフに、日本の伝統的な巧みの技に加えて、革新的な先進技術の数々を装備した“古くて新しい”コンセプトカーだった。

 開発スタッフはジクウの製作にあたって、現代に伝わる伝統工芸という有形無形の財産に着目し、2003年がちょうど江戸開府400年にあたったことから東京都の江戸開府400年事業に参加。江戸の伝統工芸職人から脈々と継承されている技や素材を、新しい視点で積極的に導入した。

ヘッドランプの光は行灯をイメージ!?

 エクステリアデザインは「歴史と時間を象徴するかたちの再発見と創造に挑戦」した。1935年型ダットサン・ロードスターを原型に、現代の実用性を加味したうえでミニマムなサイズにアレンジ。オリジナルの特徴であるハイ&ロングノーズ、ショートデッキ、2シーター、オープンシルエットを継承した。ヘッドランプは行灯や障子の明かりに見える、和紙を通した光の表情をデザインに採用。リアコンビランプとフロントグリルフィニッシャーは、最新の素材と切削技法を融合させることにより、江戸切子の持つ繊細でシャープなイメージを表現した。

 リアデッキには、ダットサン・ロードスターも持っていた“ジャンプシート”を組み込む。折り畳み式の補助席であるジャンプシートは、江戸期に発展した技術のひとつである“からくり仕掛け”の発想を生かして設計していた。またフェンダー部は、いわゆる“叩き出し”と呼ばれる銀職人の鍛金技法を生かし、暖かな銀の表情により塗装色面との調和とフォルムの緊張感を表現した。

タイムマシン感覚を味わえる江戸ナビ!

 インテリアは「伊達で粋」を追求する。インスツルメントパネルはダットサン・ロードスターをモチーフに、扇形をイメージしたシンプルな面に円型のメーターを採用。前後に3層レイヤーで構成したマルチレイヤーモニターには、レーザーポインター式のメーター指針など新しい表現を取り入れた。また江戸時代から現代の地図に加え、歴史にまつわる事象や文化伝統情報を映し出すエンターテインメントナビゲーション機能により、一種のバーチャルタイムマシンのような運転感覚を提供する。センタークラスターのスイッチパネルは、江戸時代の家紋や屋号、商店の看板などに見られる絵文字(ピクトグラフ)を現代的にアレンジして採用。ステアリング上部には江戸べっ甲の張り合わせ技術を用い、素材は水牛の角を用いることで手になじむ素材感を実現した。この他にも「水引」をイメージした足元照明を組み込んだドアトリムのガーニッシュや。「唐木細工」のフロアなど、随所に伝統の技法を取り入れ「伊達で粋」な空間を演出した。

 メカニズムの詳細についての発表はなかったが、独自の情報システムにより過去と現在を自在に行き来するドライビング感覚は注目点だった。運転席側のモニターには現在の東京の地図を表示する“東京ナビ”、助手席側モニターに江戸時代の同じ地域を表示する“江戸ナビ”を映し出し、ドライバーにあたかも東京=江戸を移動しているような感覚を与える工夫である。トピックのある地点にさしかかると、その地に伝わるエピソードや事象が映像と音声で伝えられ、過去と現在の連続性を実感することができるのだ。ドライブするだけでいわば仮想タイムトラベルを体験できるのである。ジクウは過去を見つめ直すことで、未来を指向していた。これまでのコンセプトカーとは立脚点は異なるが、クルマがもたらす豊かな世界を指向したのは同質。純ジャパンメイドの意欲作だった。