フロンテ 【1972,1973】

フェイスリフトで印象を変えた3気筒RRモデル

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水冷エンジン車を主流としたNEWフロンテ

 軽自動車の高性能化と上級化に邁進した1960年代後半の鈴木自動車工業(現スズキ)。主力モデルのフロンテは好調な販売成績を記録する。しかし、一部のユーザーからは不満が示される。寒い時期に乗ると、ヒーターの効きが悪かったのだ。また、大気汚染は年々ひどくなっていた。モータリゼーションの発展に伴う排出ガス量の増加は大きな社会問題となる。これらの課題を克服するには、空冷エンジンから水冷エンジンに移行するのが最適解だ−−。鈴木自工の開発陣はそう判断し、新水冷エンジンの開発に本腰を入れる。

 水冷化エンジンのベースとなったのは、既存のLC10型2ストローク空冷3気筒の356ccユニット。ただし、開発陣は単にウオータージャケットを纏うという方策はとらず、新設計といえるほどの大改良を施した。エンジン最上部には発電機のACジェネレーターをセット。また、シリンダーは効率を考えて62度ほど後傾化させる。トルク特性の向上を狙って、エアコントロールバルブも組み込んだ。さらにピストンなどの主要パーツも、水冷の特性に合わせて大幅な見直しを図る。結果的に完成した水冷エンジンは、既存の空冷に比べて7kgも軽い(65kg)ユニットに仕上がった。

 LC10W型と名づけられた水冷ユニットは、1971年5月にフロンテ71Wに搭載されて市場デビューを果たす。一方で前年の11月には熟成版の空冷エンジンを積むフロンテ71も発売しており、この時点でフロンテ71シリーズのエンジンは水冷と空冷の2本立てとなった。さらに1971年11月には、一部改良を施したフロンテ72をリリースする。車種展開はビジネス/ゴージャス/スポーツの3シリーズに分けられ、空冷エンジンはビジネスシリーズだけに絞られた。

 1972年10月になると、1973年型としてマイナーチェンジ版のNEWフロンテが登場する。空冷エンジン車はAUTOCLUTCH(オートクラッチ)とUの2グレードに絞り、メインに据えた水冷エンジン車ではファミリー/ゴージャス/スポーツの3シリーズを設定。また、ゴージャスシリーズには最上級仕様のGC-Wを、スポーツシリーズには高性能モデルのGT-W typeⅡを新規にラインアップした。

フロントマスクを大胆に刷新

 NEWフロンテの最大のトピックは、既存のスティングレイルックをベースに各部を刷新したエクステリアにあった。フロント部はブラックマスクに丸型ヘッドライト、抑揚をつけたボンネットラインなどで精悍な顔を構成。また、バンパーには新造形の大型タイプを装着する。さらに、三角窓を廃止することで室内換気システムの向上を印象づけた。

 内装については、従来型をベースに各部をリファイン。新設定のGC-WおよびGT-W typeⅡとGT-Wにはダイヤモンドカットの3連メーター(左メーターはGC-Wが時計、GT-W系が回転計を配置)を装着する。さらに、GT-W系にはセンターコンソールボックスも装備した。フロントシートに関しては上級グレードに左右ヘッドレストとリクライニング機構を組み込み、同時に乗員との常時接触面に滑り止め加工を施す。また、オプション設定のカークーラーはエンジンおよび電気系にできるだけ負担をかけないように専用設計。リアウィンドウには熱線プリント式デフォッガーを設定した。

 搭載するLC10W型エンジンは緻密な改良を加えたうえで、各シリーズの特性に合わせて専用チューニングを実施する。パワー&トルクはスポーツシリーズが37ps/4.2kg・m、ゴージャスシリーズが34ps/4.2kg・m、ファミリーシリーズが31ps/4.0kg・mを発生。AUTOCLUTCHとUに採用する空冷のLC10型エンジンは、31ps/3.7kg・mを絞り出した。

結果的に3代目フロンテの最終版に−−

 NEWフロンテを市場に放つ一方で、開発陣は2ストロークエンジン自体のさらなる排出ガス対策にもチャレンジする。その成果は、モーターショーやカタログおよび広告などで「EPIC(Exhaust Port Ignition Cleaner)システム」として随時披露された。排気煙を減少させるSRIS機構を内蔵したうえで、エアポンプを使ってクリーンな空気を圧送し、排気ポート内の未燃焼ガスを2次プラグで着火する排気孔点火装置のEPICシステムは、米国のマスキー法試験に合格するほどの実力を備える。構造が複雑でコストもかかったために試作で終わったEPICシステムだったが、鈴木自工の2ストロークエンジンにおける排出ガス対策技術の蓄積は確実に厚みを増していった。

 NEWフロンテの登場から9カ月ほどが経過した1973年7月、鈴木自工はフロンテの全面改良を行い、第4世代となるLC20系を発売する。搭載エンジンは水冷ユニットに1本化。スタイリングは曲線基調のオーバルシェルへと切り替わった。結果的にNEWフロンテが、スティングレイルックを纏う第3世代のファイナルモデルとなったのである。