キャッシュカイ 【2014,2015,2016,2017,2018,2019,2020,2021】

新たな開発手法で誕生した2代目クロスオーバー

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新開発システム“CMF”を全面導入

 ルノーとのアライアンスによって、ワールドワイドで競争力を強化していった2000年代の日産自動車。2社の開発現場ではさらなるシナジー効果拡大を目指し新しい開発システムを生み出す。2013年6月に新たなエンジニアリングアーキテクチャーのコモン・モジュール・ファミリー(CMF)を発表した。

 CMFはエンジンコンパートメントやコクピット、フロントアンダーボディ、リアアンダーボディ、電気/電子アーキテクチャーといった互換性のあるビッグモジュールを共通化することで、ルノー/日産アライアンスの車両で、1つまたは複数のセグメントをカバーする開発手法。従来のプラットフォームの共用化を水平なセグメンテーションとすれば、CMFはセグメントを跨いだ概念だった。CMF化によるメリットは、標準化コンポーネントの様々なセグメントの異なるタイプのモデルへの適用、コンパクトおよびラージセグメントのカバー拡大、商品の多様性を求めるユーザー需要に応えるためのスケールメリットとコスト削減の実現など多岐に渡る。日産とルノーは、このCMFの導入により1モデルあたりの開発コストを平均30〜40%削減し、さらにアライアンス全体の部品コストを20〜30%削減できると説明した。

CMFを全面採用した2代目キャシュカイの開発

 欧州向けのモデルでいち早くCMFを採用したのは、CセグメントのクロスオーバーSUVとして市場で好評を博すキャシュカイの第2世代だった。
 2代目キャシュカイの基本骨格には、CMFにより開発した新設計のプラットフォームを導入する。ホイールベースは2646mmに設定。ボディ構造は高張力鋼板を最適配置したモノコックタイプで、CMFによるコクピットやフロント&リアアンダーボディなどを組み込んだ。懸架機構には前ストラット/コイル、後トーションビーム(ツイストビーム)/コイル(2WD)またはマルチリンク/コイル(4WD)を採用。制動機構は前ベンチレーテッドディスク/後ディスクで、EBD付ABSやブレーキアシストをセットした。

 搭載エンジンは“DIG-T”直噴ガソリンターボのH5FT型1197cc直列4気筒DOHC16Vターボ(115ps/190N・m)とH110型1618cc直列4気筒DOHC16Vターボ(163ps/240N・m)、“dCi”コモンレールディーゼルターボのK9K型1461cc直列4気筒OHCターボ(110ps/260N・m)とR9M型1598cc直列4気筒DOHCターボ(130ps/320N・m)のほか、アジア・オセアニア市場に向けて直噴ガソリンユニットのMR20DD型1997cc直列4気筒DOHC16V(147ps/210N・m)をラインアップする。2015年には、MR20DE型1997cc直列4気筒DOHC16V(150ps/200N・m)も設定した。トランスミッションには6速MTとエクストロニックCVTを採用。駆動機構は2WD(FF)のほかにALL MODE 4×4-i(4WD)を用意する。

都会的デザインは欧州デザインセンターが担当

 欧州デザインセンターが手がけたスタイリングは、初代のシンプルモダンな印象から一転し、華やかさや力強さが際立つ都会派SUVらしい造形に刷新される。宝石をイメージしたヘッドランプやアグレッシブさを増したフロントバンパー、精悍なプレスラインなども訴求点。また、Vモーショングリルやその中に配されたNISSANエンブレムなど、各所に近年の日産車に共通するデザインアイコンが取り入れられた。

 インテリアに関してもより高級感が増したデザインとなり、同時にスペースを拡大して居住性を向上させる。ラゲッジルームの容量は従来比で20ℓ増しとなった。装備面ではハイビームアシストやレーンデパーチャーワーニング(車線逸脱警報)、フォワードエマージェンシーブレーキ、トラフィックサインレコグニッションなどの安全アイテム、総称“セーフティシールド”を設定。さらに、7インチタッチスクリーンモニターやリヤビューカメラ、ブラインドスポット警告、自動駐車システムのインテリジェントパーキングアシストといった先進装備も豊富に盛り込んだ。

発売は英国市場からスタート

 第2世代のキャシュカイは、英国ロンドンで2013年11月に発表される。翌2014年1月より英国サンダーランド工場で生産を開始し、2月からJ11の型式をつけて販売に移された。英国での車種展開は、下から順にVISIA/ACENTA/ACENTA PREMIUM/TEKNAを基本に構成。スマートフォンとの接続が可能なニッサンコネクトシステム搭載車も設定した。

 2代目キャシュカイは初代と同様、海外市場へも積極的に展開されていく。欧州では2014年中にフランスやドイツ、スペインなどで発売。同年6月にはオーストラリアで先代のデュアリスからキャシュカイと車名を変えてリリースされる。翌7月にはニュージーランドでの販売もスタート。さらに、中米やトルコ、韓国、シンガポールなどでも販売された。2015年になると、ロシアのサンクトペテルブルグ工場でキャシュカイの生産を開始。また、東風日産乗用車公司を通じて中国市場での販売も始まった。ちなみに日本市場では、2代目キャシュカイが2013年12月デビューの3代目エクストレイル(T32)と多くの部分を共用することから、2代目デュアリスとしての設定は見送られた。

2016年ジュネーブ・ショーで特別仕様車を披露

 2代目キャシュカイは先代と同様、ワールドワイドで販売台数を伸ばしていく。2014年11月には、サンダーランド工場でキャシュカイの累計生産200万台(2006年12月〜)を達成。これは、英国生産の日産車として最短での記録だった。
 2016年開催のジュネーブ・ショーでは、クロスオーバーセグメントにおけるパーソナライゼーションの新たな可能性を探求したキャシュカイの特別仕様モデルが披露される。日産デザインヨーロッパが仕立てた「キャシュカイ プレミアム コンセプト」だ。メインカラーにはマットブラックを採用。これをベースにプレミアムゴールデンコッパーによるホイールアーチやウィンドウライン、ヘッドランプ内やルーフレールといったボディパーツの装飾を施し、エクステリアのダイナミックなシルエットを際立たせる。また、ボディ下部にはカーボンファイバーパーツを効果的に配置。さらに、専用20インチホイールによってスポーティ感と高級感をいっそう強調した。インテリアについては、高級車で使用される柔らかなホワイトのナッパレザーやシートの座面と背面の中心部分に施されたキルティング仕上げが、これまでのコンパクトクロスオーバーセグメントにはないプレミアム感を演出する。同時に、プレミアムゴールデンコッパーを編み込んだ特徴的なカーボンファイバーをインテリア全体に配することで、見た目品質をいっそう引き上げていた。

 このショーでは、基本コンポーネントを共用するエクストレイルのプレミアム コンセプトも初公開される。スタイリングは日本のグローバルデザインセンターが担当。キャシュカイ プレミアム コンセプトとは対照的にマットホワイトをメインカラーに採用し、ボンネットやルーフには深いマットブラックのカーボンファイバーを導入。プレミアム感に加え、力強さと軽やかさを感じさせるルックスに仕立てていた。

初代と合わせて欧州最多生産の日産車に成長

 2016年2月末にはサンダーランド工場におけるキャシュカイの生産が歴代を通じて239万8134台に達し、マイクラ(日本名マーチ)の236万8704台を上回って日産の欧州最多生産車に成長する。順調な生産と好調なセールスを続けるキャシュカイ。2016年5月には韓国の環境省が「キャシュカイのディーゼル仕様車が不法に排出ガスを制御している」という旨の発表を行い、韓国日産に対して同車の販売停止およびリコールを科すものの、日産側は「当該車は韓国の規制でも認める欧州の排出ガス規制のユーロ6の適合を得ており、いかなる不正もしてない」と全面否定。後に行政訴訟に発展したが、世界的な販売への影響は小さく、キャシュカイのセールスはその後も順調に推移した。

 キャシュカイは、それまでの市場の流れを覆す、新しい可能性や思想を持つクルマ、いわゆるゲームチェンジャーに位置づけられ、見事にその役割を達成した。歴代を通じて欧州における日産ブランドの新時代を築いた記念碑は、自動運転技術のプロパイロットを現地仕様でいち早く採用するなど、2010年代終盤に入っても進化を続けている。