プレリュード 【1996,1997,1998,1999,2000,2001】

スペシャルティカー復権を目指した最後の第5世代

会員登録(無料)でより詳しい情報を
ご覧いただけます →コチラ


「大人を魅了するクーペ」を目指し全面改良

 1990年代中盤から2000年代初頭にかけての本田技研工業は、“クリエイティブムーバー”や“J・ムーバー”と称する斬新なレクリエーショナルビークル(RV)を相次いで発表する。一方、ホンダのアイデンティティといえるスポーツモデルの開発も精力的に行った。

 その代表が、世界的に高い人気を博するスペシャルティカーのプレリュードの全面改良だ。5代目となる新型を開発するに当たり、まず開発陣は「洗練された大人の感性をも魅了するクーペ」の実現をコンセプトに掲げる。具体的には、艶やかな先進デザイン、心地よさを満たすクオリティ、ダイレクトに応える走行性能を、ホンダの先進テクノロジーで創出する方針を打ち出した。

先進の“ライト&シャドウ”デザインを創造

 第5世代のプレリュードは、BB5/BB6の型式を冠して1996年11月にデビューを果たす。キャッチフレーズは「COUPE TECHNOLOGY PRELUDE」。独自の先進技術を積極的に採用した新世代のホンダ製“ザ・クーペ”であることを主張したのだ。車種展開は、タイプS/SiR/Si/Xiの4グレードで構成した。

 エクステリアは、デザインテーマに“ライト&シャドウ”を掲げ、光と影のコントラストを強調した個性的なクーペフォルムを創出する。大光量フリーフォームリフレクターヘッドライトを配したスポーティなフロントマスク、光によって表情を変えるエッジを際立たせたクールなサイドビュー、バンパーとの連続感を持たせたうえで張りのある面構成としたリアセクションでスタイリングを構築した。

 インテリアは、シンプルで爽快な機能性と上質な素材感を持つ居住空間を融合させた新しいデザインを採用。乗員とクルマの濃密な時間の流れを演出する。また、ジャストフィットパッケージのコンセプトのもと、高い実用性とコンパクトなボディ、そしてドライビングに集中できるコクピット空間を実現した。

 インテリアカラーは洗練された華やかさを追求した赤と黒の2トーンタイプと、精悍なイメージで仕立てた黒のモノトーンタイプを用意。ステアリングにはグリップの太さにもこだわったSRSエアバッグ内蔵3本スポークタイプを装備する。フロントシートはスポーツ性とエレガントさを融合させた専用のバケットタイプを組み込み、表皮にはモケット、モケット/カブロン、エクセーヌ/カブロンを設定。ヒップポイントは従来モデル比で10mmほど高め、前方およびサイドの視界を向上させた。

全車2.2Lエンジンを採用。旗艦ユニットはリッター当たり100馬力

 パワーユニットに関しては、フルフロートピストンやアルミオイルパンを新規に組み込んだ2機種/4仕様の自然吸気2.2L直4エンジンを採用する。旗艦ユニットはタイプS用のH22A型。ピストンヘッド形状を変更して圧縮比を11.0にまで高め、またVTECの高速バルブタイミング&リフトのセッティング変更やエアインテーク入り口のファンネル形状化およびダイナミックチャンバーの装着、エキゾーストマニホールドのパイプ口元径アップ、バルブシート角度の変更(60度→45度)などのチューンアップを実施した。排気量2156cc(ボア87.0×ストローク90.7mm)、直列4気筒DOHC16V・VTECエンジンの最高出力は、リッター当たり100馬力の220ps/7200rpm、最大トルクは22.5kg・m/6500rpmを発生した。

 ほかにも、圧縮比を10.6にセットしたSiR用のH22A型2156cc・直列4気筒DOHC16V・VTEC(最高出力200ps/6800rpm、最大トルク22.3kg・m/5500rpm)、ボア85.0×ストローク95.0mmとしたSi用のF22B型2156cc・直列4気筒DOHC16V(同160ps/6000rpm、20.5kg・m/5200rpm)、Xi用のF22B型2156cc・直列4気筒OHC16V(同135ps/5200rpm、19.6㎏・m/4500rpm)を設定した。

 トランスミッションにはクラッチライニングのμ向上によりライニング径およびセット荷重を低減した新開発の5速MTのほか、ATモード/シーケンシャルモードが選択できる新設計のSマチック(マニュアルモード付フルダイレクト制御4速AT)を組み合わせた。

エンジン屋のこだわりが生んだ自然吸気220ps!

 自然吸気ながら220psの高出力を発揮するH22A型エンジン誕生にはエピソードがある。当時のホンダ役員の「あと20ps出せないか」との提案から、急遽開発が決まったというのだ。同時期の他のVTECエンジンがリッター当たり100馬力を達成していたこともあり、2.2LのVTECなら220psが相当と考えたわけだ。突然の要請に対し、エンジンの開発スタッフは意欲的にチャンレンジ。前述のチューンアップを実施して、目標通りの220psを達成する。デビュー当時の試乗会では、開発スタッフが「日夜試行錯誤を繰り返しました。大変でしたが、やればできるもんです」と語っていた。

 シャシーに関しては、安定感のあるしなやかな走りを目指して徹底改良を施した進化版の4輪ダブルウィッシュボーンサスペンションを採用する。また、SiRとSiには操舵アクチュエーターのストロークアップや制御システムの精度向上などを果たした改良版の4WSを装備。さらに、タイプSには左右輪の駆動力の最適配分によりスーパーニュートラルステアフィールを実現した新開発のATTS(アクティブ・トルク・トランスファー・システム)を組み込んだ。

 ブレーキは、システムを小型軽量化するとともに制御応答性を引き上げた新型3チャンネルデジタル制御ABSを標準装備。また、タイプSにはATTSのヨーレイトセンサーと横Gセンサーを活用する専用設定のアクティブコントロールABSを導入した。

スポーティな走りを演じる「SiR Sスペック」を設定

 RVブームのまっただ中という時代背景もあり、デビュー当初を除いて販売台数は大きく伸びなかったものの、それでも原点回帰でスポーティに刷新された5代目プレリュードはマニアに人気を博し、とくにリッター当たり100馬力を誇る220ps仕様のH22Aエンジンを搭載したタイプSが脚光を浴びた。ユーザーニーズを重視したホンダのスタッフは、220psエンジンの拡大展開を画策。1998年9月になって、同エンジンを搭載するスポーツ志向の「SiR Sスペック」を市場に放った。

 SiR Sスペックは、駆動系にビスカスカップリング式のLSD(リミテッドスリップデファレンシャル)をセット。また、外装にはトランクスポイラーやボディ同色サイドシルガーニッシュ、プライバシーガラス(リアクォーターウィンドウ/リアウィンドウ)を装備し、足もとには6.5JJ×16アルミホイール+205/50R16 87Vタイヤを組み込む。
 内装には本革巻きステアリング&シフトノブやカーボン調のメーターパネル/センターパネル/パワーウィンドウスイッチパネル、カブロン/スウェードタッチファブリック表皮シートなどを採用した。

 SiR Sスペックの発売と合わせて、ホンダはプレリュード全体の一部仕様変更も実施する。ツインマップ機能/ふらつき運転検知機能/インターナビ対応などナビ機能を進化させたうえで6インチワイド画面とDVDを採用したホンダDVDナビゲーションシステムのオプション設定(全タイプ)、スポーティイメージのモケットシート表皮の導入(SiR/Si/Xi)、リアワイパーの追加と5穴アルミホイールの装着(Si)などを行った。

後継モデルを開発することなく販売を終了

 SiR Sスペックを追加設定したものの、5代目プレリュードの販売成績は全般的に低調に推移。2001年6月には4代目となる新型インテグラと統合される形で、販売を終了する。車歴を通しての国内販売台数は1万3924台だった。

 1980年代はデートカーとして一大ブームを巻き起こし、また4WSやATTSなど先進のメカニズムを積極的に採用して名を馳せた“前奏曲”ことプレリュード。デザイン性の高さと最新テクノロジーを高度に融合させたその名キャラクターが、今後、電動スペシャルティモデルとなって復活することを期待したい。