マーチ・カブリオレ 【1997,1998,1999,2000,2001,2002】

電動トップを備えた小粋なコンパクトオープン

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TMSで注目を集めたマーチの参考出品車

 1995年10月に開催された第31回東京モーターショー(TMS)の日産ブースにおいて、1台のカブリオレ・モデルが参考出品される。K11型系マーチをベースにオープンボディ化した「マーチ・カブリオレ」だ。
 当時の日産スタッフによると、「ショーモデルの完成度がとても高かったので、来場者がすぐに発売されるモデルだと思い、発売時期や価格などを尋ねる人が非常に多かった」という。しかし、この時点のマーチ・カブリオレはまだまだショーモデルの域を出るものではなく、市販化するには多岐に渡る改良が必要だった。最終的に日産の首脳陣は、ショーでの好評を踏まえてマーチ・カブリオレの量産にゴーサインを出す。そして開発現場では早速、市販化に向けた企画を推し進めることとなった。

量産型オープンボディと電動幌の開発

 肝心のオープンボディに関しては、安全性を重視した“ゾーンボディコンセプト”をベースに、オープン化ならではの入念な強化を図る。キャビン回りは補強材などを加えて剛性を確保。また、センター部には専用開発のロールバーを装備する。さらに、Aピラーの強化や三角窓の装着などを実施した。

 ルーフ部については、十分な耐久性と耐候性を施したソフトトップを採用しながら、贅沢な電動開閉機構を内蔵する。オープンからクローズの手順は、1)ソフトトップのカバーを外す 2)運転席インパネ部に配した電動開閉スイッチのCLOSEを押し続ける 3)ソフトトップが閉まりきったらルーフ前端部のロックレバーをかける、という簡単な仕組み。また、トランクルーム内にはオート/マニュアルの幌開閉切替スイッチを設定し、モーターの故障などで電動機構が使えない場合は手動でも開閉できるように配慮した。

 開発陣は装備面でも工夫を凝らす。ソフトトップに組み込むリアウィンドウには、傷つきやすいビニールではなく熱線入りのガラスを採用。オープン時の盗難防止のため、グローブボックスは鍵がかけられるようにした。2名掛けの後席(乗車定員は4名)には、シートバックの可倒機構も採用する。ほかにも、前席+リアサイドのパワーウィンドウやフルオートパワーアンテナ、“Cabriolet”ロゴ入りキッキングプレート、専用シート表地(トリコット)、ブルーメーター(速度計&回転計)、抗菌インテリア、オゾンセーフエアコン、全面UVカットグリーンガラスなどを装備した。

 1年半以上の期間をかけて完成にこぎつけた市販版マーチ・カブリオレ。その生産に関しては、パイクカー・シリーズやラシーンに引き続き、神奈川県横浜市に工場を構える高田工業が担当する。同社では専用ラインを構築し、オープン化したマーチを入念に組み立てていった。

小粋なオープンカーとして高い人気を獲得

 ショーデビューから1年10カ月ほどが経過した1997年8月、市販版のマーチ・カブリオレがFHK11の型式を付けて、ついに市場に送り出される。搭載エンジンはCG13DE型1274cc直4DOHC(79ps)の1機種で、ミッションは5速MTとN・CVTを用意。ボディカラーはメディタラニアングリーン・メタリック/ソニックシルバー・メタリック/ワインレッド・パールメタリックの3色をラインアップし、そのボディカラーに合わせたオリジナルキーを組み合わせた。ソフトトップのカラーはベージュ、内装色はグレーに統一する。車両価格は5速MTが169万8000円、N・CVTが179万6000円に設定した。

 市場に放たれたFHK11型系マーチ・カブリオレは、小粋で気軽に付き合えるオープンカーとしてユーザーから注目を集める。簡単操作の電動開閉式ソフトトップや充実した装備類も好評を博した。ただし、リアサイドウィンドウを下げずにオープン→クローズを繰り返すと、トップの一部が傷つきやすいというウィークポイントも露見する。当時のオーナーの話では、「同じクルマのユーザーやディーラーのスタッフから、口コミで“トップを動かす時は、リアサイドウィンドウを下げる”というアドバイスが伝わってきた」そうだ。
 市販版マーチ・カブリオレの登場から2カ月ほどが過ぎた1997年10月、第32回東京モーターショーの日産ブースでユニークな試みが実施される。展示したブラックのボディ色+内装色のマーチ・カブリオレ“ブラックスペシャル”を、限定5台で販売に移したのだ。申し込みは同社のインターネットサイトの「羅針盤」などから行われ、マニアの大きな関心を集めた。