コロナFF5ドア 【1983,1984,1985,1986,1987】
世界標準をリードした先進モデル
トヨタのミドルクラスであるコロナ・シリーズは、世界の流れに沿う形で前輪駆動方式への転換を図る。1983年1月に発売されたコロナFFがそれである。車名のFFは、フロント・エンジン、フロント・ドライブのイニシャル。トヨタ製のエンジン横置きの前輪駆動サルーン車として、前年にデビューしたビスタ/カムリに続くものだった。
トヨタの前輪駆動方式の採用は、この後も怒涛のように続くことになるのだが、一挙に全てのモデルを前輪駆動化するのではなく、当初はごく一部のグレードに前輪駆動方式を採用し、従来からの後輪駆動(FR)仕様も併売するという穏やかな手法を採っていた。いかにもトヨタらしい慎重なやり方である。
FFと名付けられたコロナのボディには、5ドアハッチバックが選ばれた(その後に通常のセダンも追加)。トヨタは、1965年にも同じコロナ・シリーズ(RT40系)に5ドアのモデルを加えたことがある。こちらは「コロナ5ドアセダン」と呼ばれた。4ドアセダンの豪華さとステーションワゴンの実用性を兼備していた点が魅力だった。しかし、一歩間違えると、どちら付かずの中途半端なモデルになってしまう危険性を孕んでいた。コロナ5ドアセダンも例外ではなく、大きな成功には繋がらなかった。
再び登場したコロナFF5ドアだが、旧モデルの経験を生かし、きわめて実用的なクルマに仕上がっていた。全体のスタイリングは、Cピラーから後ろの部分をファストバックとし、大きなガラスエリアを持つラゲッジスペースとして活用している。トランク容量は十分以上でワゴンにも匹敵するものだった。さらにボディの後半部分は、空力的な効果を得るために大きく絞り込まれており、見た目の鈍重さは感じられない。
インテリアはセダン系のコロナの入念な作り込みと同時に5ドアらしい使い勝手が盛り込まれていた。前後席のフルリクライニング機構を持つだけでなく、後部座席のシートバックの畳み込みが可能で、多彩なスペースユーティリティを誇った。内装や装備にはワゴンやバンなどに見られるチープさは全く無い。
コロナFF5ドアは、広い室内空間を楽しく使いこなす様々なアイデアを満載していた。たとえば荷室の仕切り板のパーセルボードをイスとしても使える頑丈な構造とし、バックドアを開いた状態でラゲッジスペースに腰掛けられるように工夫する。アウトドア・シーンで遊びのベース基地として使えるようにとの配慮だ。オーディオシステムにもアイデアを盛り込んでいた。通常のスピーカーからラジオ放送を流していても、助手席や後席で専用ヘッドホーンを使うとカセットステレオの音楽が楽しめる“サウンド・イン・サウンド・システム”である。フロント部中央に配置した缶ジュース5本を収納できるクールボックスを含め、コロナFF5ドアは、ユーザーフレンドリーで使う楽しさ満載のクルマだった。
フロントに横置きされ、前輪を駆動するエンジンは、デビュー当初は水冷直列4気筒SOHCの1S‐LU型1832㏄仕様1種のみとなる。最高出力は100ps/5400rpm、最大トルクは15.5㎏・m/3400rpmである。トランスミッションは5速マニュアルと3速オートマチックの2種がある。サスペンションにはこのクラスのモデルとしては珍しくスタビライザーが標準装備され、ブレーキも前がベンチレーテッドタイプのディスク、後はリーディングトレーリング型のドラムブレーキを組み込んでいた。当時の実用モデルとしては、走りの性能を重視したことが伺われる。 日本では、定着し難かったハッチバックだったが、このコロナFF5ドアはかなりの成功を収めたという。トヨタらしい、気配りの利いた先進モデルであった