スカイラインGTS 【1989,1990,1991,1992,1993】

“走りのスカイライン”復活を目指して

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本来のスカイラインの姿とは−−

 後にバブル景気といわれる好況に沸いていた1980年代後半の日本の自動車市場。ユーザーの注目はハイテクを満載した高性能車に集まり、とくに“ハイソカー”と呼ばれるモデル群が販売台数を伸ばしていた。
 1985年8月に登場したR31型スカイライン、通称“7thスカイライン”も、ハイソカー人気の一翼を担う。直線基調のスタイリングに見栄えのいいインテリア、そして4ドアハードトップをイメージリーダーに据えた7thスカイラインは、ハイソカーファンの心を確実に捉えていた。一方、スカイラインを“走り”のスポーツモデルと捉えていた昔からのマニアにとっては、7thスカイラインは決して満足のできるモデルではなかった。とくに大柄なボディと高級感重視の内装が、ため息をつかせたのである。
 満足しなかったのは、何もユーザーだけではない。開発スタッフの側でも、スカイラインのハイソカー志向を疑問視する者が多かった。このままでは、せっかく築いてきたスカイラインの“走り”のイメージが消え去ってしまう……。危惧を抱いた開発陣は一念発起し、「次期型では走りを徹底的に突き詰めたスカイラインを造ろう」と決心した。

 走りの復活を目指した次期型スカイラインの本格的な開発は、1985年の夏から始まる。この時、開発チームに追い風が吹く。1985年6月に社長に就任していた久米豊が、社内の啓蒙策として“901運動”の大号令を発したのだ。「90年代には技術の世界一を目指す」というこの運動は、開発や設計などの部門で大々的に展開された。走りを徹底追求しようとした次期型スカイラインにとって、最新技術の開発は必要不可欠。それを社内全体で推し進めてくれるのだから、開発チームにとってはまさに願ったり叶ったりだった。やがて次期型スカイラインの開発は、901運動を象徴するプロジェクトのひとつになっていった。

“走りのスカイライン”の原点回帰

 新しいスカイラインは、伊藤修令主管を筆頭にして開発コンセプトが固められていく。そして「これまでのスカイラインの流れを一端ゼロに戻し、原点に帰って走りの本質を突き詰める」という結論に達した。
 この基本コンセプトのもと、各部門での開発が鋭意進められていく。シャシー開発の部署ではスカイラインの「走りのイメージ」を具体的に構築。さらに従来型以上に細かく、しかも厳しい評価基準を策定し、一覧表にまとめた。「2Lクラス最強のパフォーマンス」を目標に掲げたエンジン開発の部署では、既存のRB型直列6気筒エンジンをベースに大幅な改良を加える。とくにトップユニットとなるRB20DET型2L直6DOHCターボは、ボールベアリング式ターボチャージャー軸受け機構などの先進技術を積極的に盛り込んだ。組み合わせるトランスミッションも徹底的にテストされ、5速MTはシンクロ同期時間の短縮やストロークのショート化を敢行し、4速ATでは電子制御のマッピング変更などを行った。

 エクステリアを担当するデザイン部門では、「躍動感、ニュー(new)、おしゃれ、オリジナリティ、ハイパフォーマンス」の5テーマを掲げて造形を創出する。インテリアは「スポーツマインドにあふれた空間」を目指し、実験部の評価を聞きながら細かな設計変更を繰り返した。

走り好きの大注目を集めたものの……

 1989年5月、8代目に当たるR32型スカイラインがついに市場デビューを果たす。
 新型のボディ形状は2ドアクーペと4ドアセダンの2タイプの設定で、いずれも7thスカイラインより全長が短く、しかもロー&ワイド化される。キャビンはフロアレイアウトの改良によってヒップポイントが下がり、さらに手前にスラントしたインパネ形状の採用などで見た目のスポーティさと囲まれ感を演出していた。エンジンは3機種のストレート6(RB20DET型/RB20DE型/RB20E型)と1.8L直4(CA18i型)をラインアップする。足回りは新開発の4輪マルチリンクサスペンションで、上級仕様のGTS系には2段絞りバルブ構造のダンパーを奢っていた。さらに進化版のスーパーHICASも装備し、操安性と旋回性の向上を実現する。

 走りのスカイラインへと原点回帰したR32型は、たちまち昔からのファンや走り好きの注目を集め、とくに高性能モデルのGTS-tタイプM系は高い人気を獲得する。一方、最大のボリュームゾーンである従来のハイソカーユーザーからは高い支持が得られず、しかも1990年代に入るとレクリエーショナルビークル(RV)がブームとなったため、結果的にR32型は満足のいく販売台数を残せずに推移した。また、1989年8月にデビューしたスーパースポーツの“GT-R”が、量販モデルのインパクトを薄めてしまったことも売り上げの鈍化の一因となった。
 テコ入れ策として開発陣は、1991年8月のマイナーチェンジでRB25DE型2.5Lエンジンを搭載した上級仕様のGTS25系をラインアップに加える。さらに、Xシリーズと称する4ドアモデルのラグジュアリーグレードも新規に設定した。

 走りのイメージを強調したR32型スカイライン。原点回帰でユーザーにアピールしたその姿勢は、結局GT-Rを除いて販売台数の伸びにはつながらず、満足のいく成績は残せなかった。そして9代目となる次期型のR33では、再びボディの大型化とラグジュアリー化を選択することになるのである。