アルト 【1979,1980,1981,1982,1983,1984】

会員登録(無料)でより詳しい情報を
ご覧いただけます →コチラ


車両価格47万円の衝撃!

 1979年の時点でスズキ・アルトの47万円という車両価格が如何にセンセーショナルなものだったかは、一般的な軽自動車が70万円程度であり、ファミリーカーの代表的存在だったカローラやサニーは100万円レベルに在ったことからも良く分かる。
 スズキ・アルトは1979年5月に同社の看板車種であったフロンテ・シリーズの商用ライトバンとして売り出された。この商用ライトバン(軽ボンネットバン)という存在は、自動車税制上の一つの盲点であり、軽商用車は購入の際に物品税が無税になるという利点を狙ったものだった。ビールに対して酒税の安い発泡酒や、雑酒をビールメーカーが積極的に開発・販売しているのと事情はちょっと似ている。

潔いシンプル設計。クリーンな印象

 ボディそのものは5ドアのフロンテをベースに2ドア化したものを流用してコスト軽減を図っていた。この他、アルトのコストダウンの手法は、全く感心するしかないほど見事なものだった。たとえば、ラジオやシガーライター、フロアカーペット、リアウィンドウの熱線デフォッガー、助手席側の車外キーシリンダーなどは潔く省かれ、電動モーターによるウィンドウウォッシャーなどはゴム製の手動ポンプ式に置き換えられているなど、いわゆる有っても無くても困らない”快適装備”の多くは装備されていない。

エンジンはパワフルな3気筒

 商用車とするために後部サイドウィンドウ内側には荷崩れ防止のための金属製縦バーを入れてあるし、上ヒンジの1枚開き型リアゲートを持つ。一応定員は4名だが、折りたたみ式の後部シート(これも商用車としての重要な要素)は実際には子供向けでしかないものだった。エンジンフードの開閉も室内からワイヤーで行うものではなく、ボンネット先端に付けられたエンブレムを押し込むとロックが解除されるようになっていた。

 搭載されるエンジンはフロンテにも使われている水冷直列3気筒2サイクルで、排気量539ccから28ps/5500rpmの最高出力を得ている。駆動方式はフロント・エンジン、フロント・ドライブ、トランスミッションは4速マニュアルのフロアシフトのみの設定となっていた。ブレーキは4輪ドラムだ。商用車としての最大積載量は2名乗車で200㎏、4名乗車で100㎏となっていた。

ミニマムの価値を追求した意義

 「軽ボンネットバン」という新しいジャンルを切り開いたと言えるアルトだったが、47万円という価格以外はメーカーが提示したその真の意味は多くのユーザーに良く理解されなかったようであった。この種の低価格車の多くが辿った道と同様、アルトは装備の充実と言う名のデラックス化と性能向上へのラインを突き進むことになる。ただしパイオニアはやはり偉大だった。初代アルトのデビューから半年後の1979年10月には後部座席を省略した純粋な2シーターモデルも登場させたのだ。2シーターモデル登場の背景には、アルトを契機に、ライバル他社もこぞって「軽ボンネットバン」を発売したため、2シーターモデル以外は物品税を課税されることになったことがあるが、アルトが本来目指していたベーシックカーの理想像をピュアなカタチで提案することにこだわった結果だった。

1980年5月にはセミATを搭載したアルトも売り出される。当然価格は若干高くなった。しかしそれ以上にビギナーや女性ユーザーにも最適なモデルが誕生したことに意義があった。排気ガス浄化のために永年使い続けていた2サイクル・エンジンから、4サイクル・エンジンへ換装したのも静粛性やメンテナンス性面でプラスとなった。
 豪華高性能を極める日本車の中にあって、クルマのミニマムを追求したと言える最初のスズキ・アルトが目指したものは、今も大きく輝いている。