タウンエース・ワゴン 【1976,1977,1978,1979,1980,1981,1982】
現代のミニバンの基礎を築いたファミリー1BOX
1976年10月にデビューしたタウンエースは、最大積載量600kgの大衆キャブオーバー車と、1トン級キャブオーバー車の中間を狙って開発された積載量750kg級ミドルクラスの1BOXコマーシャルビークルだった。トヨタで言えばライトエースとハイエースの中間に位置するモデルで、ライトエースをカローラ級、ハイエースをマークII級のキャブオーバー車とすると、タウンエースはコロナやカリーナ級のキャブオーバー車だった。
徹底したスペース効率によりコマーシャルビークルの本分である優れた積載能力を確保するとともに、独自のワイドトレッド設計などで走行性能や快適性も重視したことが特徴で、今回の主役となるワゴンは、広いキャビン空間を生かして3列シートを配置、8名乗りを実現したパッセンジャーカーである。
タウンエース・ワゴンは、現代のミニバンのルーツとも言えるユーティリティワゴンだった。全長3990mm×全幅1650mm×全高1745mmのボディは全高が15mm低いことを除き商用車登録のバンと基本的に共通だったが、もともと伸びやかなライン構成を持ち、スタイリッシュだったからワゴンのイメージにもよく似合った。とくに専用ストライプ&ホイールキャップを採用する上級版のカスタムはファミリーワゴンらしいフレンドリーな雰囲気が漂った。リアドアは助手席側のみに配置するスライド式を採用する。
エンジンは余裕を重視した1588ccの直列4気筒OHVの12T型。入念な排気ガス対策により85ps/5400rpm、12.5kg・m/3400rpmのスペックはバンの1600(93ps/13.1kg・m)より低かったが、実用域のパワフルな印象が魅力で、静粛性にも優れた実力派エンジンだった。トランスミッションはコラムシフトの4速マニュアルで、オートマチックは未設定。カスタム・グレードではディスクブレーキやラジアルタイヤを標準装備とし、しっかりとした走りが味わえた。
定員8名のタウンエース・ワゴンの個性は広い室内空間と、優れた使い勝手にあった。室内寸法は長2780mm×幅1430mm×高1345mmと広大で、シート配置は1列目2名掛けセパレート、2列目3名掛け分割ベンチ、3列目3名掛け一体ベンチの3列構成。2列目と3列目はリクライニング可能で、2-3列目をフラットに繋げることができた。さらに3列目を畳むと広大なラゲッジスペースが実現し自転車などの大物も簡単に積み込めた。
ちなみに3列目シートに乗り込む場合は、スライドドア側の2列目シートが簡単に折り畳めたので乗降性にも優れていた。オプションで2-3列目を効率的に温めるリアヒーターを注文することもできたし、カスタムではFM付きオーディオを標準装備するなど快適性面の配慮も十分だった。現代のミニバンと比較するとさすがにシンプルだったが、それでも通常ユースからレジャーユースまで幅広いユーザーニーズに応える優れたユーティリティの持ち主と言えた。
タウンエースが誕生した1976年当時、乗用車と商用車(その派生のワゴンを含めて)では装備面で大きな差があった。乗用車は贅沢さと快適性を積極的に追求していたのに対し、商用車はタフなことが第一条件だった。タウンエースは新世代モデルとして開発されたから、乗用車との差は非常に少なかった。それでもカタログを眺めると、現在では当たり前のアイテムが“充実した装備品”として紹介されている。
列記すると「無反射式メーター/ラジオ/集中一体式ライト/ブーストベンチレーター/前席用クーラー(オプション)/ステアリングロック/可倒式ミラー/ブレーキブースター」などだ。ラジアルタイヤやディスクブレーキでさえ特別装備品として紹介されたのだから。いかに現在と事情が違うかが理解できる。ちなみに当時パワーウィンドーやパワーステアリングはオプションでも設定されなかった。
クルマを生活の幅を広げるパートナーとして考える先進ユーザーは、タウンエース・ワゴンの高い機能性に注目する。手頃なボディサイズと8名乗りの広々キャビン、高速クルージングも楽々とこなすパフォーマンスとリーズナブルなプライスの融合が、新たなファミリーカーとしてタウンエース・ワゴンを選ばせたのである。1978年にはエンジンをパワフルな1770cc(92ps)とし、より使い勝手に優れたハイルーフ仕様としたニューグレードを加えるなどラインアップを増強。ワゴンとしての魅力と存在感を増した。タウンエース・ワゴンはファミリー向けワゴンとして独自のマーケットを創造することになる。