ブルーバード 【1979,1980,1981,1982,1983】
原点に回帰した先進的な6代目
高い技術力で厳しい排出ガス規制を克服した日産自動車は、1970年代終盤になると滞っていた新型車の開発を本格的に推し進めるようになる。とくに中核車であるブルーバードの全面改良には、開発陣も大いに力を入れていた。
新しいブルーバードを企画するに当たり、開発陣は“原点回帰”を試みる。ブルーバードの設計理念は「つねに先進的なクルマであること。そして、最高水準のメカニズムをもつこと」。これこそが本来の“ブルーバード・スピリット”であり、次期型はこれを具現化するものでなくてはならない−−。こうした開発方針のもと、「1980年代を代表する高性能、高品質の本格乗用車」の創出を目指した。
スタイリングは、“シンプル&クリーン”をデザインテーマに掲げる。ボディラインは直線を基調に、シャープで安定感のある面構成でアレンジ。その上で、調和のとれた新造形のスタイルドヘッドランプや大型バンパーなどを装着した。
キャビン空間については、居住性と機能性の向上を主要課題とする。室内スペースは幅やヘッドクリアランス、レッグスペースを広げた上で、シート自体の拡大や面圧分布の改良を実施。さらに、インパネのレイアウトを視認ゾーンと操作スイッチゾーンに区分して、見やすさと使い勝手の引き上げを図った。
メカニズムに関しては、新機構を積極的に取り入れる方針を打ち出す。そして、直進安定性と制動時の方向安定性を高める“ハイキャスター・ゼロスクラブ・サスペンション”や応答性に優れた“ラック&ピニオン式ステアリング”、クラス初採用となる“フロント・ベンチレーテッドディスクブレーキ”などの技術トピックを盛り込んだ。搭載エンジンはV字型配置の吸排気弁や1気筒当たり2本のプラグの配置した既存のZ型系エンジンを、チューニングを見直して搭載する。ラインアップはZ20E型系1952cc直4OHC(120ps)/Z18E型1770cc直4OHC(115ps)/Z18型1770cc直4OHC(105ps)/Z16型1595cc直4OHC(95ps)を設定。Z18E型については、最新の過給器であるターボチャージャーの組み込みも仕様検討された。
1979年11月、6代目となる910型系ブルーバードが市場に放たれる。ボディタイプは2ドアハードトップと4ドアセダン、5ドアワゴン(車名はADワゴン)、5ドアバンの計4タイプを用意(ワゴンとバンは同年12月から販売)。810型系で設定していたロングホイールベース仕様は、カタログから外れた。
直線基調のシャープでスポーティなルックスに、先進の足回りを採用した910型系ブルーバードは、たちまち市場での大人気を獲得する。販売台数も急上昇し、1979年12月には1600cc〜2000cc小型乗用車クラスの月間トップセールスを記録。それ以後も、同クラスの首位に立ち続けた。また、910型系はその走りの良さから、自動車マスコミ界で「510ブルの再来」「走りのブルの復活」などと大絶賛された。
好調なセールスを記録し続ける910型系ブルーバードは、1980年3月になるとスポーツグレードの真打ちといえる仕様が追加設定される。日産にとっては1979年12月に発売した430型系セドリック/グロリア2000ターボに続くターボモデルの第2弾となる“ブルーバード1800SSSターボ”がデビューしたのだ。
搭載エンジンはZ18E型をベースにギャレット・エアリサーチ社製ターボチャージャーを組み込んだユニットで、型式は“Z18E-T”を名乗る。パワー&トルクは135ps/6000rpm、20.0kg・m/3600rpmを発生した。
ターボモデルの追加によって販売台数の伸びにさらに拍車がかかった910型系ブルーバードは、1982年1月になると新鮮味を維持するためのマイナーチェンジを敢行する。最大の注目ポイントは新ボディタイプの設定で、「4ドアセダンの実用性と2ドアハードトップのスポーティさにファッション性をプラスした」という4ドアハードトップをラインアップに加えた。
スタイリッシュな4ドアハードトップ車は、若者層を中心に大人気を博す。また、この時のマイナーチェンジでは、ロックアップ機構付きのオートマチックトランスミッションの設定やエレクトロニック・デジタルメーターの採用なども実施。クルマとしての魅力度は、さらに引き上がった。
510型系以来の大ヒットモデルとなり、1979年12月から1982年2月まで1600cc〜2000cc小型乗用車クラスの月間販売台数首位を連続27カ月も守り続けた910型系ブルーバードは、1983年10月になると全面改良が実施され、7代目となるU11型系に移行する。そのU11型系では、駆動レイアウトがついにFRからFF(フロントエンジン・フロントドライブ)へと一新されたのであった。
910型ブルーバードの高い人気を博した理由のひとつに積極的な広告展開があった。イメージキャラクターを務めたのは、ヒット曲を連発していた沢田研二さん。ドレッシーな衣装を身にまとった沢田さんが、「ブルーバード、お前の時代だ」というキャッチフレーズを囁くシーンが、クルマ好きのみならず、音楽ファンのあいだでも大注目を浴びた。ブルーバードと沢田さんの組み合わせは非常に好評で、次期モデルのU11型系の前期型でも、沢田さんがイメージキャラクターとして起用された。