EV-N(コンセプトモデル) 【2009】
名車N360のイメージを纏ったカジュアルEV
未来のクルマ生活はなかなか楽しそうだ。2009年の東京モーターショー・ホンダブースに展示されたEV-Nは、そう感じさせるサムシングを秘めた存在だった。
EV-Nは1967年に登場した名車、ホンダN360のデザインエッセンスを取り入れたコンパクトなEV。走行時にCO2を排出しないEVは次世代車の主役である。しかし、持つ悦び、使う楽しさまで吟味して設計されたEVは少数派。だがEV-Nは違う。ホンダ一流の遊びゴコロで、ワクワクするEVに仕上がった。そこが未来を感じさせる要因なのだ。
近い将来(一部ではすでにその段階に入ったとの説もあるが…)クルマは“白物家電化”すると言われている。スタイリングなどの個性や情緒的な側面が重視されなくなり、無味乾燥の機能重視の動く箱に変化すると言うのだ。しかしEV-Nを見ているとその予想は外れそうだと安心してくる。クルマは人間の行動半径を広げ、生活をポジティブに変化させる相棒だ。今後ますます地球環境に対する配慮が求められるのは当然だが、クルマの本質そのものは変わらない。クルマが人間のよきパートナーであり続ける限り、そして開発陣に熱意がある限り、未来のクルマはもっとワクワクする存在へと成長するに違いない。
EV-Nのスタイリングにはヒューマンな温かみがある。全体のフォルムやヘッドランプ、リアランプなどに往年のN360のモチーフを応用しているため、レトロな空気が流れているのが一因だ。しかしそれだけではなさそうだ。コンパクトなボディの四隅でぐっと踏ん張ったタイヤ。そしてその上部に載るボディの微妙な丸みなど、どことなく小動物に通じるヤンチャ生き物感を表現したことに秘密がありそうだ。
前後にあえてバンパーなどの突起を設けず、ヘッドランプを最大のアイキャッチにするなど、クルマというより小動物に通じる愛らしさを強調した造形なのだ。しかも起動時にフロントグリルが光ることで喜びを表現したり、交差点での右左折時にグリル内の光りの流れで周囲に注意を喚起するなど、人とクルマの新たなコミュニケーション手法にもこだわった点も心が躍る。
EV-Nはいわば血が通った生き物としてデザインされている。これが乗ってみたいと感じさせる最大の要因になっている。ちなみにボディサイズは全長2865×全幅1475×全高1515mm。ホイールベースは1995mmだ。現在の軽自動車よりも一回り小柄で、オリジナルのN360と比較すると135mm短く、180mmワイドで、170mm背が高い。ホイールベースは5mmEV-Nのほうが短いがほぼ同等だ。
コンパクトなサイズながらEV-Nは4シーターのキャビンを持っている。後席の広さはそれなりだが、それでも4人が乗れることの意味は大きい。工夫しだいでファーストカーとして使えるからだ。未来のクルマは、無駄を極力省くことが魅力に繋がる気がする。ビッグサイズの4シーターより、巧妙なパッケージングを持つコンパクトな4シーターのほうが評価は高くなるに違いない。EV-Nを見てそう確信した。
EV-Nの室内には楽しい工夫を満載している。後席を畳んで広いラゲッジルームを演出できるだけではない。100%リサイクル可能な薄型の軽量シートバックは別のデザインのシートバックに簡単に交換できる。自分の部屋のように模様替えができるのだ。
左右のドアトリム内には、あのASIMOの技術から生まれた電動1輪モビリティであるU3-Xを収納できるスペースを用意している。しかも収納するとU3-Xの充電が自動的に始まるのだ。駐車場までU3-Xで移動し、遠い目的地までEV-Nを使う未来の“4+1輪生活”の提案である。
ホンダは2009年の東京モーターショーで、従来の太陽電池と比べて製造過程でのCO2排出を抑えたCIGS薄膜太陽電池を含め、発電と各種EVを組み合わせた次世代の電動技術ビジョン、HELLO(Honda Electric mobility Loop)を発表したが、ホンダの考える次世代モビリティは、独立して別個に存在するものでなく、それぞれが有機的に連係を図ることで、さらに可能性を広げワクワク感が増すものなのだ。
残念ながらEV-Nの詳しい技術スペックは発表されていない。とはいえ1997年にすでに高性能なニッケル水素バッテリーを搭載し、1充電当たり210km以上の航続距離を誇るEVプラスのリース販売を行っているホンダである。EV-Nが世界トップレベルの実用性能を目指していることは間違いない。EV-Nが、このままのカタチで市販される可能性は低いが、S2000も、ハイブリッドスポーツのCR-Zもルーツは東京モーターショーのコンセプトカーだった。EV-Nの血統を継承する市販モデルが登場する可能性は十分にある。期待したい。