GT-R(R35) 【2007〜】
日本を代表するモンスター級スーパースポーツ
2007年12月、日産自動車は究極のGT-Rとも言うべき日産GT-R(R35型)を発売した。車名からはスカイラインの名が外された。
GT-Rの歴史は、遠く1964年5月から始まる。第2回日本グランプリ自動車レースに必勝を期して、当時のプリンス自動車がスカイライン1500をベースに、ひとクラス上のグロリア用直列6気筒エンジンを搭載して高性能車としたスカイラインGT(S54B/後にGT-Bを名乗る)がGT-Rのルーツだ。日本車には珍しく、最初からレースを念頭に置いており、以後のGT-Rもすべてモータースポーツを目的として開発された。豪華な装備を合わせ持ったスポーティーカーとは、その成り立ちに於いて根本的な違いがある。
日産のフラッグシップとなった感のあるGT-Rの足跡は、大きく分けて3つの時代に分かれる。
最初は1969年2月に発売されたスカイライン2000GT-R(PGC10型)や1971年10月にデビューした2ドアハードトップのスカイライン2000GT-R(KPGC10型)、さらに、1973年1月に登場したスカイライン ハードトップ2000GT-R(KPGC-110型)までの時代、ここでGT-Rの歴史は一旦閉じられることになる。
その次が16年のインターバルを置いて、1989年8月に登場した日産スカイラインGT-R(BNR32型)、1995年1月にデビューした日産スカイラインGT-R(BCNR33型)、さらに、1999年1月登場の日産スカイラインGT-R(BNR34型)までの時代、そして、2007年12月デビューのR35型の時代である。同じGT-Rの名を持つモデルなのだが、各々の時代には設計思想や目的などにおいても明確な違いがある。そこには、単なる高性能車であること以外の意味も見出すことができる。
R35型の日産GT-Rは、2007年の第40回東京モーターショーにおいて最終量産型が発表され、同年12月に発売された。これに先立つ6年前の2000年からGT-Rの開発は始まっており、翌2001年10月の第35回東京モーターショーでは「GT-Rコンセプト」と称するスタディモデルが展示され、「GT-Rの復活!」として、マスコミの大きな話題となった。その当時は日産が未曾有の経営危機に陥っており、高性能車を開発する資金的な余裕はなかったが、フランスのルノーとの経営統合に成功、最高経営責任者として着任したカルロス・ゴーン氏の鶴の一声で開発が決定したと言う。
開発開始から生産型の発表まで、実に6年間の時間が必要だったわけだ。開発の総指揮を執ったのは、日産のモータースポーツ活動にも深く関わっていた水野和敏氏であり、新しい日産GT-Rがスーパースポーツになったのも当然であった。
日産GT-Rの基本的なレイアウトは、フロント縦置きエンジンによる4輪駆動システムを備えた2ドアクーペである。車体前方に置かれたエンジンからクランクシャフトと同じ速度で回転するプロぺラシャフトは、後部車軸上に置かれたクラッチ、デファレンシャル、さらに動力を2方向に分けるトランスファーギアにパワーを伝達。トランスファーギアからはもう一本のプロペラシャフトが逆に前方に伸びて前側デファレンシャルへと至るという複雑なパワートレーンを採用した。
4輪駆動システムの基本的な仕組みは従来からのGT-Rにも使われている日産独自のATTESA E-TSを発展させたもの。たしかに、4個の車輪に伝えられるとてつもないパワーを制御するには、こうした複雑なメカニズムにならざるを得ないのだが、大きな欠点はシステム全体の重量が大きくなり、従ってクルマ全体の重量も増えてしまうことである。ちなみに、量産型のニッサンGT-Rの車重は標準仕様でも1740㎏にも達している。
搭載されるエンジンは1種のみで、R35のために全く新しく開発された。排気量3799㏄のV型6気筒DOHCで、これに2基のインタークーラー付きターボチャージャーを装備したもの(VR38DETT型、出力480ps/6400rpm)。エンジン出力やトルクなどは、改良を重ねて次第に向上し、2012年モデルでは550ps/6400rpmにもなっている。トランスミッションはボルグワーナー社製のデュアルクラッチ方式を持つ2ペダル6速マニュアルのみの設定。
サスペンションは前がダブルウィッシュボーン/コイルスプリング、後がマルチリンク/コイルスプリングの4輪独立懸架を採用。ショックアブソーバーはドイツのビルシュタイン社との共同開発による3モード選択式電子制御機構を備えた「ビルシュタイン・ダンプトロニック」と呼ばれる専用タイプで、ドライバーの意思でダンピング効果を設定できる。
ブレーキはイタリアのブレンボ社特の特別仕様。重い車重とハイパワー、高速走行に対処して、前後輪とも直径380㎜のブレーキディスクが装着されている。ブレーキディスクには多数の穴をあけ、冷却効果を高めている。キャリパーは前が対向型6ポッド式、後が対向型4ポッド式となっている。このブレーキにも改良が加えられ、最近の仕様ではローターの直径が390㎜と大型化された。
タイヤはダンロップ製の「SPスポーツ600DSST」と呼ばれるランフラット仕様が標準装備とされ、上級グレード用としてブリヂストン製「ポテンザRE070R」が指定されている。ランフラットタイヤは、タイヤが何らかの理由でパンクしても、80㎞/hでおよそ80㎞の距離を走行することができるもので、従ってGT-Rにはスペアタイヤは搭載されていない。ちなみに標準モデルのアルミホイールは日本のレイズ製が選ばれている。GT-R用にとくに精度を高めた逸品である。
デザインに関しては、好みの別れるところではあるが、空力的な効果や重量配分、安全性の確保などの諸条件を突き詰めて行くことで必然的に生まれるスタイルのひとつであることは確かだ。基本的なスタイリングデザインは、日本はもちろん世界各国からの公募作品を基に決められたものだと言う。テールライトが円形となっているのは、スカイライン当時からのGT-Rの伝統を継承したもの。販売価格は、2007年12月発売の初期モデルでは777万円だったが、性能向上とともに価格も上昇し、2012年型では869万4000円となる。最強の「エゴイスト」仕様では1500万300円。
国産最高性能を誇る日産GT-Rはモータースポーツでも大活躍を見せ、国内外のGTレースでは数多くの勝利を獲得している。日本車の歴史に残るスーパーグランドツーリングカーである。