環境への取り組み/ホンダ01 【1970〜1980】

低公害CVCCエンジンの開発と搭載車の拡大

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独自の低公害エンジンの開発過程

 従来の空冷式から転換し、エンジンの水冷化を成し遂げた1970年代初頭の本田技研工業。同社は次なる目標として、アメリカで施行される予定の1970年大気浄化法改正法、通称“マスキー法”をクリアする低公害エンジンの開発に勤しんだ。
 開発陣がまず着目したのは、エンジンの燃焼行程だった。レーシングエンジンを手がけていた本田技研工業では以前から燃焼を研究しており、低公害エンジンでは「燃料と空気の混合比をできるだけ薄くする」という手法が採用される。その目的のために編み出されたのが、副燃焼室を設けた複合渦流調速燃焼方式のCVCC(Compound Vortex Controlled Combustion system)だった。主燃焼室のほかに小さな副燃焼室を設け、ここに濃い混合気を入れて着火させ、その噴流が主燃焼室の薄い混合気にまで達して全体を燃焼させるという仕組みのCVCCは、触媒などの後処理装置なしで排出ガスのクリーン化を達成することができた。

 完成した画期的なCVCCエンジンは、まず1971年2月に本田技研工業から単体で技術発表される。そして1972年12月にはアメリカのEPA(環境保護庁)で排出ガスのテストを受け、見事に合格した。この時点でCVCCユニットは、マスキー法をクリアした第1号エンジンとなる。
 ちなみに、日本では1972年8月に環境庁の諮問機関である中央公害対策審議会の大気部会自動車公害専門委員会が「自動車排出ガスの長期設定方策」を答申。これを受けて、環境庁は「自動車排出ガス量の許容限度の設定方針について」を公示し、1974年1月になって「自動車排出ガス量の許容限度」を策定する。まず昭和50年(1975年)規制では、CO2.1g/km、HC0.25g/km、NOx1.2g/km以下に規定。続く昭和51年(1971年)規制では、自動車メーカーの技術開発期間を考慮して、NOxの暫定規制値となる大型車0.85g/km/小型車0.6g/kmが提示される。そして昭和53年(1978年)規制では、ついにNOxが0.25g/km以下とされた。

シビックに搭載されて市場デビュー

 1973年12月、ED型と名づけた1488cc直列4気筒OHC・CVCCユニット(63ps/10.2kg・m)を積む「シビックCVCC1500・4ドア」が市場に送り出される。このモデルは、日本の昭和50年排出ガス規制をトップでクリアした1台でもあった。アメリカ市場では1975年モデルからシビックCVCCの販売を開始する。

 シビックCVCCのデビューは衝撃的だったが、実はその2カ月前にも本田技研工業は世間を騒がせた。ホンダの創立25周年を祝うパーティの席上で、本田宗一郎社長と藤澤武夫副社長の盟友が退任し、経営権を持たない最高顧問に就くと表明したのである。水冷エンジンやCVCCの成功が自分抜きで行われたことで、「後継は育った。これなら会社を任せても大丈夫」と判断したためだった。2代目社長には、二輪レースの監督も務めた河島喜好氏が就任した。

 新体制のもと、本田技研工業のCVCCエンジンはさらなる進化とバリエーションの拡大を図っていく。1975年8月には、シビックの1200シリーズもCVCC化(EE型)。同時にED型も出力アップ(63ps/70ps)を図ったうえで、昭和51年排出ガス規制をクリアした。

新しいミドルクラス車にもCVCCエンジンを採用

 1976年5月になると、シビックのひとクラス上のカテゴリーとなる上級ハッチバック車の「アコード」が市場デビューを果たす。搭載エンジンはCVCCを組み込んだEF型1599cc直4OHCユニットで、80ps/12.3kg・mのパワー&トルクを発生した。また、1977年10月には4ドアノッチバックセダンの「アコード・サルーン」を追加。搭載エンジンは改良版のEF型で、キャブレターの霧化特性の向上や点火時期コントロールシステムの変更、温水式ライザーの採用、最高出力の2psアップおよび低中速トルクの引き上げなどを実施する(このエンジン仕様はハッチバック車にも適用)。さらに、アコード・シリーズは1978年9月にエンジン排気量を1750cc(EK型)にまで拡大。同時に副燃焼室構造の改善やポイントレス・フルトランジスター点火装置の装着などを敢行し、最も厳しいとされた昭和53年排出ガス規制をパスした。

 排気後処理装置だけに頼ることなく、エンジン本体の改良によって排出ガス規制を克服した本田技研工業。燃焼システムにこだわるそのオリジナリティあふれる開発方針は、1980年代に入っても明確に継続されることとなった——。