86 【2012,2013,2014,2015,2016,2017,2018】

完成度を高め続ける新世代FRスポーツ

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トヨタ自動車は富士重工業(現SUBARU)と共同開発した
FRスポーツ車の「86」を2012年2月に発表する。
“直感ハンドリングFR”をコンセプトに据えて
企画した渾身作はFRプラットフォームに
軽量・コンパクト・低重心・低慣性のパッケージ、
フロントミッドシップの水平対向D-4Sエンジン、
機能美を追求した内外装デザインを採用。
同時にモータースポーツやカスタマイズ商品など、
86を使った様々なスポーツカーの楽しみ方を提案した。
トヨタと富士重工業によるFRスポーツカーの共同開発

 かつてはGMグループ内の優良ブランドに位置づけられていた富士重工業(現SUBARU)。しかし、2000年代中盤になると提携先であるGMの業績が大幅に悪化する。経済マスコミは、こぞって「業績回復のため、GMがグループ企業の株の売却を計画している」と報じた。

 2005年10月になると、その予想がついに現実となる。GMは保有する富士重工業株(出資比率約20%)の売却を決定。そのうちの8.7%をトヨタ自動車が譲り受けることとなった。同時にトヨタと富士重工業は業務関係での提携も発表し、開発や生産面での協力関係を構築する方針を打ち出す。マニアの注目を集めたのは、共同でFR(フロントエンジン・リアドライブ)の小型スポーツカーを開発するプラン。2008年には正式にゴーサインが出された。

 新しいスポーツカーを企画するに当たり、車両パッケージやデザインなどはトヨタ側が、エンジンをはじめとする機構面や生産などは富士重工業側が主導し、頻繁に合議を行って開発が進められる。また、肝心のエンジンに関しては2ℓクラスの水平対向ユニットの採用を早々に決定。エンジン長が短く、しかも低重心で優れた回転バランスを有するボクサーエンジンのメリットが、FRスポーツカーを造るうえで最適の動力源と判断されたのだ。

東京モーターショーでコンセプト版を披露

 トヨタと富士重工業がジョイントして開発した新しい小型FRスポーツは、まず2009年10月開催の第41回東京モーターショーで陽の目を見る。車名は“Future Toyota”の略であるFT、そして往年の小型FRスポーツカーである4代目カローラ・レビン/スプリンター・トレノの型式の86を組み合わせて「FT-86 Concept」を名乗った。

「クルマ本来の運転する楽しさ、所有する歓びを提案する小型FRスポーツのコンセプトモデル」と説明されたFT-86 Conceptは、コンパクトなサイズ感、軽量・低重心な車両特性とレーシングカー感覚のドライビングポジションがもたらす意のままのハンドリング性能、エモーショナルでユーザーの心をとりこにするスタイリングなどを特徴とする。また、動力源には2ℓ水平対向4気筒のNAエンジンを搭載し、ボディカラーにはFLASH REDを採用していた。

 2010年1月開催の東京オートサロンの舞台では、スポーツコンバージョン車の新シリーズである“G Sports(通称G's=ジーズ)”の1モデルとして「FT-86 G Sports Concept」を発表。

 2011年に入ると、まず3月開催のジュネーブ・ショーで発展型の「FT-86 II Concept」を公開。10月には渦巻柄のカモフラージュを施したレース仕様のFT-86がニュルブルクリンク耐久レース(VLN)に参戦する。そして、11月に富士スピードウェイで開催されたTOYOTA GAZOO Racing FESTIVALにおいて新型コンパクトFRスポーツの「86(ハチロク)」プロトタイプをサプライズ公開し、翌12月開催の第42回東京モーターショーで同市販型を雛壇に上げた。

専門ショップの開設とともに「86(ハチロク)」を発売

 市販モデルの86は2012年2月に発表。3月には富士重工業群馬製作所本工場において兄弟車のスバルBRZとともにラインオフ式を行い、4月より販売をスタートさせる。グレードはGT Limited/GT/G/RCの4タイプで構成し、車両価格は199〜305万円とリーズナブルに設定。また、オーナーとともにスポーツカーカルチャーを地域に根づかせる目的で専門ショップの「AREA 86」を86の発売にあわせて開設した。

“直感ハンドリングFR”をコンセプトに開発された86は、基本骨格に専用設計のFRプラットフォームをベースとした軽量・コンパクト・低重心・低慣性の新パッケージを導入する。

ボディ自体は高張力鋼板の拡大展開やフェンダーの薄板化、エンジンフードおよびエンジンアンダーカバーへのアルミ材の使用などで効率的に軽量化を図りながら、高強度のキャビン構造や全方位での衝撃吸収構造を実現。同時に前後重量配分の最適化(前席2名乗車時で53:47)、空気の流れを利用して上下左右から車体を挟み込むエアロハンドリング発想の空力ボディ、トヨタ車で最も低いヒップポイント位置(400mm)を採用した。懸架機構には前マクファーソンストラット/コイル、後ダブルウィッシュボーン/コイルをセット。

操舵機構にはクイックなギア比とした電動パワーステアリングを組み込む。ホイールベースは2570mmに設定した。

使える高性能!自然吸気200PS搭載

 フロントミッドシップに縦置き搭載するエンジンには、ボア×ストロークを86.0×86.0mmのスクエアタイプとしたうえで筒内直接噴射とポート噴射を使い分けるツインインジェクターのD-4Sを組み込んだ新開発のFA20型1998cc水平対向4気筒DOHCユニットを採用する。また、吸排気の制御機構として専用セッティングのAVCS(Active Valve Control System)を設定。バルブ駆動機構を適正な角度に保つ機械式中間ロック機構も内蔵した。

一方でマニホールドに関しては、インテーク側で低ユニット化やポート径の拡大およびポート長の短縮などを、エグゾースト側で排気干渉を低減させる4-2-1集合レイアウトの採用やパイプ径の拡大などを実施する。さらに、走りのマインドを刺激し、クルマとの一体感を高めるために吸気サウンドを演出する“サウンドクリエーター”を新開発。内部のダンパーが吸気脈動に対して200〜600Hzの間で共振し、吸気サウンドを増幅させるサウンドクリエーターは、ドライバーのアクセルワークに連動してメリハリのあるエンジンノートを発生した。

スペック面では、12.5の高圧縮比と無鉛プレミアムガソリンの燃料指定から、200ps/7000rpmの最高出力と20.9kg・m/6400〜6600rpmの最大トルクを発生。自然吸気でリッター当たり100馬力を達成したうえで、JC08モード走行燃費はRCグレードで13.4km/ℓの好燃費を実現する。

組み合わせるトランスミッションには、ショートストローク化や1〜3速のトリプルコーンシンクロ化を果たした6速MTとMポジションにおける2〜6速の全域ロックアップ制御やパドルシフトを組み込んだ6速AT(6-Speed SPDS)を設定した。

 車両デザインは、普遍的な機能美を追求する。2ドアクーペスタイルのエクステリアは低重心パッケージと空力性能を基本に構築。乗車定員を4名に絞ったインテリアは、スポーツカーの本質を追求。ステアリングにはテストドライバーと確認を重ねて最適なグリップ断面形状とした小径365mmの真円タイプを採用。メーターには回転計を中心にレイアウトした3眼タイプを配する。前席にはスポーツ走行による前後左右のGに耐えられるようバケットタイプを装備した。

マイナーチェンジを重ねて完成度をアップ

 発売1カ月で月販目標の7倍となる約7000台の受注を記録し、好スタートを切った86は、デビュー後も着実に中身の進化と車種展開の強化を図っていく。2014年4月の一部改良では、ダンパーのフリクション特性を見直すなどサスペンションのチューニング変更を行い、操縦安定性および乗り心地を向上。内外装ではシャークフィンタイプのルーフアンテナの標準装備やインパネのカーボン調加飾の意匠変更などを実施した。

 2015年2月の一部改良では、電動パワーステの特性変更やボディ剛性の強化、センタークラスターおよびドアグリップへの高輝度シルバーメタリック塗装などを実施する。同時に、RCグレードを廃止。また、カスタマイズカーの「86“style Cb”」を新規に設定した(発売は4月)。さらに同年7月には、特別仕様車の「86 GT“Yellow Limited”」を発表する。

 2015年12月になると、ニュルブルクリンク耐久レース参戦を通じて得た知見を活かし、TOYOTA GAZOO Racingが開発したコンプリートカーの「86“GRMN”」が発表される。エンジンは吸排気系の変更に加えて内部パーツの低フリクション化により応答性を向上。トランスミッションにはクロスレシオ化した6速MTを組み合わせた。

外装ではCFRP素材のエンジンフードやトランクリッド、ルーフパネルの装着に加え、ポリカーボネート製のリアウィンドウおよびクォーターウィンドウの採用により、いっそうの軽量化と低重心化を達成。さらに、補強材追加によるボディ剛性の向上や足回りの専用チューニング、前後異径タイヤ(前215/40R17、後235/40R17)の装着、ブレーキ性能の強化なども実施した。

販売については商談の申し込みを2016年1月中にWeb限定で受け付け、抽選のうえ同年2月より100台限定で発売。価格は648万円に設定していた。

2016年のMCで “走りの味”を鍛え直す

 2016年に入ると、2月に専用エアロパーツをフル装着したカスタマイズカーの「86 GT“エアロパッケージ”」を発表(発売は5月)。7月にはマイナーチェンジを行い、吸排気系部品の改良によるFA20エンジンの性能アップ(MT207ps/21.6kg・m)やボディ剛性の強化、サスペンションなど足回りの改良およびSACHSアブソーバーのオプション設定、空力特性のリファインなどを実施した。

さらに11月には、特別仕様車の「86 GT“Solar Orange Limited”」を発表(発売は2017年3月)。2017年9月になると一部改良を敢行し、ステアリングの支持剛性の強化やパワーステの再チューニング、ブレンボ社製ブレーキを標準装備した「86 GT“Limited・Black Package”」の新設定などを行った。

 小型FRスポーツカーとして着実な進化を続ける86。走る楽しさを徹底追求し、具現化していくその積極姿勢は、まさに名スポーツカーの王道といえるだろう。

COLUMN
86GRMNをもとに開発したピュアスポーツ直系の「86GR」の概要
 トヨタは2017年11月に傘下のスポーツカーブランドの「GR」で展開する86のハイパフォーマンスモデル「86GR」を発表し、同年12月より発売した。 2016年2月に限定100台で販売した86GRMNをもとに開発し、キャッチコピーに“ピュアスポーツ直系の遺伝子”と掲げた86GRは、フロントステアリングラックブレースおよびリアサスペンションメンバーブレースを追加して剛性を高めたほか、専用チューニングのサスペンション(SACHSアブソーバー+ローダウンスプリング)や専用大径ベンチレーテッドディスクブレーキ(前フローティング・ドリルドディスク)+モノブロック対向フロント6ポット/リア4ポットキャリパー(GRロゴ付レッド塗装)、専用トルセンLSDをセットして走行性能をアップ。 また、外装は専用フロントスポイラー+専用フロントバンパーサイドフィン/専用センターシングルエグゾーストテールパイプ/軽量鍛造アルミホイール+ミシュランPilot Sport 4タイヤ(前215/45R17、後235/45R17)などを採用して機能美を追求。一方、内装は専用小径本革巻き3本スポークステアリング(シルバーステッチ+GRエンブレム+スポーク部ブラック加飾)/専用レカロ製フロントシート(アルカンターラ表地)/ブラック加飾センタークラスター&サイドレジスターベゼル&ドアグリップを装備してスポーティなコクピットを演出した。ボディカラーはクリスタルホワイトパールのみをラインアップ。車両価格は496万8000円に設定していた。