ジェミニ 【1985,1986,1987,1988,1989,1990】

ヨーロッパを感じさせたFFスタイリッシュモデル

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高い人気を獲得した傑作の誕生

 いすゞ自動車が「ふたご座」の英語名である、Gemini(ジェミニ)を車名とした小型車を発表したのは1974年11月のことである。その後ジェミニは順調に発展を続け、1985年5月には前輪駆動方式を採用した第2世代となる。この第2世代のジェミニでは、小型車の定番的なスタイルであった2ボックススタイルにテールゲートを持ったハッチバックモデルが初めてシリーズに加えられた。第2世代のジェミニは先代モデルの時代から築き上げたスポーティーなイメージを受け継ぐ形で高い人気を獲得し、一時的にはトヨタ カローラに迫る販売台数を記録するほどだった。

 車名に前輪駆動方式を表すFFの名を付けた理由は、後輪駆動方式の旧型が並行販売されていたからである。フルチェンジされたFFジェミニは、他メーカーからの借り物モデルではなく、いすゞの独自開発モデルで、旧型のオーソドックスなイメージを払拭し、近代的でスタイリッシュなモデルとなっていた。いすゞの技術力はまだまだ衰えてはいなかったのだ。

ジウジアーロが手掛けたエクステリア

 基本的なスタイリングデザインは、いすゞ117クーペやフローリアンなどのデザインを手掛けたイタリアン・カロッツェリアの雄、ジョルジェット・ジウジアーロによるもので、その頃のジウジアーロのアイディンティティであった直線基調のシャープなスタイリングとなった。しかし、いすゞ社内でフロント部分のスタイルをリファインしたため、ジウジアーロのデザインであることは公式には発表しなかった。ボディバリエーションは3ボックススタイルの4ドアセダン、2ボックススタイルの2ドア+ハッチバックの2車種であった。GMでは、旧型同様に新型ジェミニを世界戦略車として、シボレーブランドではスペクトラムの名で販売した。また、1985年5月からオーストラリアでも生産・販売されている。

 エンジンのラインアップは、発売当初には排気量1471㏄のガソリン仕様、直列4気筒SOHC(4XC1型、出力86ps/6000rpm・グロス値)1機種のみだったが、6ヶ月後の1985年11月からは排気量1487㏄のディーゼル仕様として直列4気筒SOHCにターボチャージャーを装備(4EC1型ターボ付き、出力70ps/5000rpm)したユニットおよび自然吸気型(4EC1型、出力55ps/5400rpm)を加えた。スポーツ心臓としては、1986年5月にガソリン仕様のインタークーラー付きターボチャージャー仕様(出力120ps/5800rpm)が、1988年にはZZハンドリング・バイ・ロータス用に、1588ccの直列4気筒DOHC16Vユニット(135ps/7200rpm)を設定する。

 トランスミッションはマニュアルミッションをベースとした電子制御オートマチックのNAVI-5、通常の3速オートマチック、5速マニュアルの3種をラインアップしていた。 サスペンションは前がマクファーソンストラット/コイルスプリング、後ろがコンパウンドクランク/コイルだった。

レカロシート採用のスポーツ仕様を設定

 FFジェミニには、英国のロータス社がステアリング系のチューニングを行った「ZZハンドリング バイ ロータス」やドイツのイルムシャーがサスペンションチューニングを加えた「イルムシャー」仕様、あるいはヨーロッパの小型車に多く見られたキャンバス製のスライディングルーフを備えたユーロルーフ仕様など、スペシャルチューニングモデルや特別装備仕様が続々と登場する。

 ハンドリング ・バイ・ロータスやイルムシャー仕様では前席にレカロ社製のスポーツシートが装備されていた。いずれも、どちらかと言えば地味な存在であったFFジェミニに、様々な付加価値を付け、ステイタスを上げようとする狙いがあった。

いすゞ空前の販売実績を記録

 1987年2月に、縦置きエンジンによる後2輪駆動の旧型ジェミニの生産を完全に終了し、第2世代ジェミニに付けられていた前輪駆動方式を示す「FF」の名が削られ、単にジェミニの車名とされた。
 スタイリングや性能的には平凡なジェミニであったが販売は好調で、いすゞ始まって以来の未曾有の販売実績を残している。「街の遊撃手」と言うキャッチコピーとともに、海外で撮影されたスタント走法を巧みに盛り込んだTVコマーシャルの効果も大きかった。
 第2世代のジェミニは、1985年5月から1990年3月までに総数74万8216台が生産されたというから、ビッグヒットと言って良い。国産車の隠れた名車である。