日本カー・オブ・ザ・イヤーの歴史02 【1985,1986,1987,1988,1989】
技術的なアドバンテージで魅力を鮮明化
1980年代半ばから後半は、日本の自動車技術が世界をリードしはじめた時期とオーバーラップする。いままでも故障率の低さ、リーズナブルな価格が評価され欧米市場で一定の地位を築いてきたが、1980年代半ばには、先進ハイテク技術、クルマそのものの魅力という面でも世界を牽引する存在に成長。とくに米国市場ではGMやフォード、クライスラーなどのBIG3を脅かす存在に成長していく。日本カー・オブ・ザ・イヤー受賞車も、技術的なアドバンテージを持ったクルマが目立つようになった。
1985-86年の第6回は「ホンダ・アコード&ビガー」が受賞する。アコードとして3代目、ビガーとしては2代目となる受賞モデルは、スタイリングやエンジンはもちろん、インテリアの細部に至るまですべてが新しい、まさにブランニューモデルだった。アコードはすでに2代目モデルからアメリカ工場での生産を開始し、ベストセラー・ブランドに成長していたが、イヤーカーは徹底的に挑戦的。新しさこそが魅力の源泉だった。
スタイリングは、ノーズが非常に低い個性的な仕上がり。ボディタイプは4ドアセダンと、従来のハッチバックに替わるエアロデッキの2種で、全車にリトラクタブル式ヘッドランプを採用していた。小型車枠いっぱいの1695mmに設定した全幅とワイドトレッドと相まって、日本車離れしたダイナミックなプロポーションが魅力だった。FF車としては世界初の採用となった4輪ダブルウィッシュボーン式サスペンションもニュース。
エンジンは1.8Lと2Lの両方に新開発DOHC16Vユニットを設定し、俊敏な走りを約束した。クラスの新基準を樹立した静粛性と、快適な装備群も話題の的。アコード&ビガーは、日本車が世界の中心になったことを象徴したエポックカーだったのである。ちなみに88年4月にはアメリカ工場で生産するアコード・クーペの輸入もスタートしている。
1986-87年の第7回は、欧州的な合理性と、クラスを超えたスタビリティが評価された。イヤーカーは日産自動車の「パルサー/エクサ/ラングレー/リベルタ・ビラ」のパルサーBROSである。チェリーから発展したパルサーBROSは、海外市場で高い実績を誇る国際派だ。欧州でもVWゴルフやオペルなどのライバルに互して好調な販売台数を記録していた。イヤーカーは、適度なサイズと長距離走行でも疲れない運転環境、そしてなにより安定した走りという持ち味を磨き込んだ正常進化版で、クリーンなスタイリングが目を引いた。
高い支持を集めたのは新世代4WDシステムである。“フルオート・フルタイム4WD”と呼ばれたそれは、シンプルなビスカスカップリング方式の4WD機構で、通常はFF走行だが、路面状況の変化に応じて自動的に後輪に駆動力を分散し安定した走りを生み出す。雨や雪道はもちろんだが、通常の高速走行でも高いスタビリティが実感できる優れたシステムで、しかも機構はシンプル。価格設定もリーズナブルだった。4WDのメリットを日常の走行シーンで実感できるようにしたのは、このパルサーBROSの功績である。
第8回、1987-88年のイヤーカーは、当時の最新技術を満載した“ハイテク”の代表「三菱ギャラン」が受賞する。トップモデルのVR-4は、ハイパワー205ps仕様のDOHC16Vターボ+フルタイム4WD+ABS+4WS(4輪操舵システム)を組み込んだ、まさにスーパーセダンだった。路面状況を選ばないスタビリティと圧倒的なトラクション性能。そして新次元の操る喜びを1台に凝縮していた。しかもセダン本来の居住空間を生み出すパッケージ面の煮詰めも見事だった。
当時世界じゅうの注目を集めたポルシェのスーパースポーツ、959と同様の超高度なハイテクを量産セダンに結実したのである。ギャランは三菱の高い技術力とともに、日本車の技術レベルの高さを象徴する存在だった。三菱はこのギャランからWRC(世界ラリー選手権)への再挑戦を開始する。それは技術ポテンシャルの高さを証明する出来事といえた。
先進技術を、純粋な走りの歓びと、持つ誇りに昇華させた存在。それが第9回のイヤーカー「日産シルビア」である。ハイテクはさまざまな不可能を可能にする。しかしその反面、クルマ本来のエモーショナルな部分をスポイルしがちだ。この反省に立って開発したのが4代目となるS13型シルビアだった。
開発コンセプトは“アート・フォース”。パワフルなDOHC16Vターボ、マルチリンク式リアサスペンションなど、先進技術を積極的に盛り込みながらも重視したのは“美しさ”と“楽しさ”。ロングノーズ・シルエットの2ドアクーペ・ボディはあくまで流麗で、見る角度によってさまざまな表情を見せた。しかもFRレイアウトならではのナチュラルなハンドリング性能も超一級品。久しぶりにクルマの素晴らしさを雄弁に語りかけてくる存在だった。現在の水準でもフレッシュな魅力たっぷりのスペシャルティクーペである。