キャロル 【1962,1963,1964,1965,1966,1967,1968,1969,1970】
クラス唯一の4気筒エンジンを積んだ軽サルーン
マツダ(当時は東洋工業)は、1960年代前半に高い技術力を武器に軽乗用車市場に一気に攻め込む。1960年5月にR360クーペを発売。R360クーペは、シリンダーヘッドやクランクケースにアルミ合金、ロッカーアームカバーやオイルパンにはマグネシウム合金を使用した空冷90度V型2気筒の4ストロークエンジン(16ps)をリアに搭載。トランスミッションは4速MTと2速ATの2種でトップスピードはMTが90km/h、ATは85km/hをマークした。
斬新な2+2レイアウトのR360クーペの販売は順調だった。軽快な走りと空気抵抗を抑えたお洒落なデザイン、徹底した軽量設計(車重380kg)、そして30万円(MT)というスバル360などのライバルより約20%も安い価格をアピールポイントに販売を拡大、年末までの7ヶ月間で2万3417台を販売した。R360クーペは翌1961年2月にサイドウィンドーをスライド式から巻き上げ式に改良し、同時にサイドモールとホワイトリボンタイヤ、2トーン塗装を装備したDXグレードを追加。さらに販売に弾みをつける。
R360クーペのヒットで軽乗用車市場に進出を果たしたマツダは、1961年秋の第8回全日本自動車ショウに小型乗用車のマツダ700を出展した。それは水冷4気筒660ccの水冷4気筒4ストロークエンジンをリアに配置した4ドアセダンで、リアウィンドーをシャープに切り取ったクリフカット処理のスタイリングが印象的だった。このマツダ700こそ、第2のマツダ製軽乗用車となるキャロルのプロトタイプだった。
マツダ700は、コンパクトカーとはいえ小型乗用車だった。車検が必要で税金も高額。まだ本格モータリーゼーションが始動する前の日本の市場環境にあっては、贅沢な存在だった。憧れは抱いても主に経済的な理由で一般ユーザーには手が届かなかったのである。
R360クーペや、軽商用車でユーザーの懐具合を熟知していたマツダである。そのあたりの事情は心得ていた。当初からマツダ700はユーザーを刺激するためのアドバルーンと捉え、本命として軽乗用車バージョンのキャロル360を準備していたのだ。
1962年2月、マツダ700のイメージとメカニズムを投影したキャロル360がデビューする。ボディサイズは軽自動車規格に収められていたが、メカニズムは小型車のマツダ700の贅沢な設計をほぼそのまま取り入れていた。
キャロル360のリアに搭載していたパワーユニットは世界最小の水冷4気筒4ストロークOHVユニット。当時の日本では最高の圧縮比10の設定で358ccの排気量から18ps/6800rpmのパワーを発揮した。シリンダーヘッド、エンジンブロック、クランクケース、ミッションケース、クラッチハウジングなどエンジンの主要部品はすべてアルミ合金製である。
サスペンションは車高を容易に変更できる機構を装えた、前後ともトレーリングアームとトーションバーによる4輪独立タイプ。車重はR360クーペより140kgほど増えたが、2速以上がシンクロの4速MTとの組み合わせでトップスピード90km/hをマークした。ちなみに当初のボディタイプは2ドアセダンのみだった。
キャロル360は“本格乗用車”を求めるユーザーに圧倒的な支持を受ける。発売数ヶ月にして生産は当初の予定を上回る月産3000台に引き上げられ、同時にバリエーションの拡大が始まった。
1962年5月に内外装の装備を充実させたDXグレードを追加。11月には4ドアボディを持つ小型車規格の600をラインアップ。さらに1963年11月に軽自動車規格の4ドアモデルを登場させる。
キャロル360・4ドアは軽乗用車唯一の4ドアモデルだった。ファミリーユースを意識したキャロルにとって4ドアボディは大きな魅力となる。4ドアの追加に伴いエンジンも改良された。最高出力を18ps/6800rpmから20ps/7000rpmに、最大トルクは2.1kg・m/5000rpmから2.4kg・m/3000rpmに引き上げた。エンジンは全般的にパワフルになっただけでなく、最大トルクの発生回転数を一挙に2000rpmも低くしたことで低速域のドライバビリティを大きく改善。走りに逞しさを加えた。トップスピードも94km/hに上昇する。
4ドアの追加とエンジン改良で販売に一段と弾みをつけたキャロル360は、1967年モデルで内外装の一部をリファイン。同時にスペアタイヤをリアのエンジンルーム内に移動させ、フロントに狭いながらも荷物スペースを確保する。
キャロル360は1970年8月の生産終了まで軽自動車唯一の4気筒エンジン、4ドアモデルという個性を守り好評を博す。なかでも充実装備のDXは人気が高かった。1967年のホンダN360デビュー以降は、20psエンジンのため走りの面で非力と評されたが、実用性を重視するユーザーにとって、最後まで愛すべきパートナーだった。