ランサー・エボリューションⅥ 【1999,2000】

圧倒的なパフォーマンスで速さを実証した伝説の名車

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WRCの頂点を目指して第6世代のランエボを開発

 世界ラリー選手権(WRC)の舞台では、1997年シーズンよりワールドラリー(WR)カーのカテゴリーが導入される。規定は年間に2万5000台以上を生産するモデルの派生車種であれば過給機の装着や駆動方式の変更などは自由とし、同時に直接的なベース車を年間2500台以上生産すればOKというもの。

 それまでのトップカテゴリーであるグループA規定は、12カ月に5000台以上の生産が必須条件で、しかも競技車に仕立てるにはエンジンや空力パーツなどの変更が基本的に認められなかったため、ベース車の実力が優劣を決した。グループA規定では多くの欧州メーカーは三菱自動車工業のランサー・エボリューション(ランエボ)や富士重工業のインプレッサWRXに歯が立たず、結果的にWRC参戦に二の足を踏む。エントリー数の縮小などを懸念した統括団体のFIA(国際自動車連盟)は、打開策として改造範囲が広く、かつベース車の生産台数も少なくて済むWRカーのカテゴリーを新設したのだ。

グループAマシンで98年シーズンに参戦

 1998年シーズンからはWRCの主力カテゴリーになると予想されたWRカー。この状況に対して三菱自工のチームは、あえてグループAでの参戦継続を決断する。ラリーで培った技術を、より多くの市販車に活かすという従来からの基本姿勢を貫こうとしたのだ。そして、走行性能や制動性能を引き上げる目的でボディ幅を1770mmにまで拡大し、同時に徹底した改良を図ったツインスクロールターボ付き4G63型エンジンを搭載するグループA仕様の「ランサー・エボリューションⅤ(エボⅤ)」を開発した。

 エボⅤがWRCに参戦したのは、シーズン第5戦のカタルニアから。それまでの4戦は熟成が進んだエボⅣでエントリーし、第2戦のスウェディッシュでトミ・マキネン選手が、第3戦のサファリでリチャード・バーンズ選手が優勝するなど好成績を残す。そして満を持して、第5戦でエボⅤを投入。初陣はマキネン選手が3位、バーンズ選手が4位に入り、第7戦のアルゼンチンではマキネン選手が優勝を飾る。さらに第10戦のフィンランド、第11戦のサンレモ、第12戦のオーストラリアでマキネン選手が怒涛の3連勝を果たし、最終の第13戦グレイトブリテンではバーンズ選手が勝利した。三菱チームにとってシーズン最多の7勝をあげた1998年は、初のマニュファクチャラーズチャンピオンに輝くとともに、マキネン選手のドライバーズチャンピオンとグスタボ・トレレス選手によるグループNのドライバーズチャンピオンを獲得。見事にWRC三冠の完全制覇を成し遂げた。
 このままランエボを進化させれば、グループAのままでもWRカーに対抗できる--そう確信した三菱チームは、1999年シーズンのWRCもグループAでいく方針を決定。そのためのエボⅥの開発を、急ピッチで進めていく。

エボⅥは冷却性能の向上を狙ってファインチューニング

 開発陣は、ツインスクロールターボ付き4G63型1997cc直列4気筒DOHC16Vエンジンの緻密かつ徹底した改良を実施する。とくに力を入れたのが冷却性能の向上で、水温制御方式の変更(入口制御方式→出口制御方式)やピストンへのクリーングチャンネルの追加、エンジンオイルクーラーの大型化およびフルダクティング化、オイルパン内の撹拌抵抗の低減などを実施。さらに、室内のスイッチで任意に冷却水を噴射できるインタークーラー&ラジエター用ウォータースプレーを装備した。

 一方、エアインテークホース径およびターボチャージャー吸気入口径の拡大などを行って高回転域でのポテンシャルアップとレスポンスの向上を実現。また、モータースポーツ競技ベース車両のRSグレードにおいてはターボチャージャーにチタンアルミ合金製タービンホイールを新採用する。パワー&トルクの数値は従来と同様の280ps/6500rpm、38.0kg・m/3000rpm。ただし、前述のチューニング変更により耐久性と信頼性は確実に向上していた。

 組み合わせる5速マニュアルトランスミッションは、1/2/3速にトリプルコーンシンクロをセットする。ギア比は各変速段のつながりを意図して1速2.785/2速1.950/3速1.407/4速1.031/5速0.761/最終減速比4.529に設定。また、RSグレードにはスーパークロスレシオタイプを採用し、オプションとしてツインプレートクラッチを用意した。駆動系には熟成のAYC+フロントヘリカルLSDを組み込み、4輪への最適なトルク配分を可能にすることで高次元の旋回性能を実現する。

 懸架機構は改良版の前マクファーソンストラット/後マルチリンクで、フロントではボールジョイント部をロワアーム側からナックル側へ移設してロールセンター高の低下を、リアではロワアーム/トレーリングアーム/トーコントロールアームのアルミ鍛造化やリバウンドストロークの増大などを実施。また、フロントのナックルを鋳造から鍛造へ、リアのロワアームブッシュをゴム入りピロボールブッシュへ変更することで、旋回時の剛性感をアップさせる。制動機構ではブレンボ社製ブレーキシステム(フロント対向4ポット/リア対向2ポット)のキャリパー剛性の向上を図った。装着するタイヤは専用セッティングを施した225/45ZR17サイズ(RSは205/60R15サイズ)。ホイールには新デザインのOZ社製7.5JJ×17アルミホイール(RSはスチールホイール)をセットした。

新形状のエアロパーツを採用して空力性能をアップ

 ランサー・エボリューションⅥのエクステリア改良は、空力性能と冷却効率の改善がメインメニューとなる。フロントバンパーは、エアロダイナミクスの向上と同時にエンジン部のクーリング性能を優先させたデザインに刷新し、下部には大型のエクステンションを組み込む。また、ナンバープレートのオフセット配置やフォグランプの小型化によって有効開口面積の拡大を図った。さらに、バンパー右サイドにはオイルクーラー通過風を排出するベンチレーターを設ける。サイド部に装着する大型エアダムは、入念なテストを繰り返して形状を決定。ウィッカー型迎角調整式リアスポイラーは1999年のWRCレギュレーションに合わせて小型化しながら、新たに2枚翼化して有効なダウンフォースを確保した。ボディ自体の改良も行われ、前後ウィンドウ部分のスポットの増し打ちやサスペンション取付部およびリアシェルフ結合部などの剛性アップを実施する。最終的なディメンションは全長4350×全幅1770×全高1415mm/ホイールベース2510mmと、エボⅤと同数値に仕上がった。

 インテリアは基本的にエボⅤと同形状で仕立てながら、一部シート生地や本革巻きステアリングステッチ、シフトノブ&ブーツステッチ、メーターなどにブルーのカラーリングを施し、よりスポーティで上質なムードを演出する。装備については、ロードバージョンにレカロ社製フルバケットシートやMOMO社製本革巻きステアリングといったスポーツアイテムを設定。また、運転席&助手席SRSエアバッグシステムも標準で装備した。

「次の頂点へ、進化していく」の謳い文句で市場デビュー

 新しいランエボは、「ランサー・エボリューションⅥ」を名乗って1999年1月に市場に放たれる。キャッチコピーはWRCでの再頂点を目指す目的を端的に表現した「次の頂点へ、進化していく」。車種展開は従来型と同じく、ロードバージョンのGSRとモータースポーツ競技ベース車両のRSが用意された。

 スタイリングと中身のさらなるポテンシャルアップを果たしたエボⅥは、従来型よりも向上したロードホールディング性能に広いコントロール幅、そしてレスポンスと熱耐久性が引き上がったエンジン特性などがユーザーから高く評価される。また、WRCグループA仕様のエボⅥはライバルのWRカーを凌駕する走りを見せ、マキネン選手に1999年シーズンのドライバーズチャンピオンをもたらすこととなった。

マキネン選手のドライバーズチャンピオン4連覇を記念した特別仕様を発売

 1999年シーズンの制覇によって、史上初のドライバーズチャンピオン4連覇を成し遂げたマキネン選手。その偉業を記念して、三菱自工はランエボⅥをベースとする特別仕様車の「トミ・マキネン・エディション」(GSRとRSの2グレード)を2000年1月に発売した。

 特別仕様車というと、通常は内外装の一部変更にとどめたモデルが多い。しかし、トミ・マキネン・エディションは違った。内外装の大幅なリファインに加え、機構面でも大胆な刷新を図っていたのだ。まずエンジンでは、中低速域でのトルクおよびレスポンスの向上を狙って、コンプレッサーホイール径の小型化と翼形状の変更を実施したハイレスポンス・チタンアルミ合金ターボチャージャーを採用。排気系には、排圧低減による性能アップなどを意図した大口径シングル真円テールパイプを組み込む新構造スポーツマフラーを装着する。足回りには、舗装路の走行に照準を合わせた専用セッティングのターマック仕様サスペンションをセット。操舵機構にはクイックステアリングギアレシオをGSRにも設定した。

 外装については、空力特性と冷却性能のさらなる向上を狙った新造形のフロントバンパーとエクステンションに、WRCマシンと同デザインのアルミホイール、パッションレッドの専用ボディカラー、WRCマシンのディテールを再現したスペシャルカラーリングパッケージ(WRCストライプ/RALLIARTステッカー/スリーダイヤMITSUBISHIステッカー/リアスポイラーアッパーウィング部のホワイトカラー化など)を採用する。一方で内装に関しては、“T.MAKINEN EDITION”ロゴを刺繍したレッドファブリック&エクセーヌ表地のレカロ社製フルバケットシートやブラック盤面レッド文字&目盛りの専用カラーメーター、レッドステッチのMOMO社本革巻きステアリング&シフトノブ&ブーツステッチなどを装備した。

 WRCにおけるランサー・エボリューションは、2001年シーズンの途中から「ランサー・エボリューションⅦ」(2001年1月発表)をベースとするWRカーの「ランサー・エボリューションWRC」に移行する。大幅な改造を施したエボWRCのキャラクターは、市販車のエボⅦとは一線を画していた。つまり、WRCのワークスマシンに直結する市販モデルとしては、エボⅥが最終型となったのだ。“ラリーの三菱”のアイデンティティが目一杯に具現化された最後の高性能市販モデル--それがランサー・エボリューションⅥの名車たる理由なのである。