クロスロード 【2007,2008,2009,2010】
ハンサム&マルチユースフルなコンパクトSUV
ホンダは、「半歩先/一歩先」のユーザーニーズを探り出すのに長けたメーカーである。2007年2月にデビューしたクロスオーバーSUV、クロスロードはまさにそんな1台だった。
クロスロードは、5ナンバーミニバンのストリームをベースに開発したSUVである。ワールドモデルに成長したCR-Vが、2006年登場の3代目でボディサイズ&エンジン排気量とも大型化した影響もあり、日本国内で使い勝手に優れたモデルとして企画された。開発コンセプトは「アクティブライフナビゲーター」。開発陣が込めた思いは、毎日の生活の様々なシーンをより積極的に楽しみ、枠にはまらない生活へと誘うクルマだった。具体的には1:SUVならではのデザイン、機動性。2:コンパクトカー並みの扱いやすいサイズ。3:ミニバンの3列シート/7名乗車、を実現したマルチモデルである。
2007年当時、SUVにはまだオフロードモデルのイメージが強かった。しかしホンダはSUVを単なるタフなモデルと解釈せず、行動的なユーザーが乗り、そして生活を一段とアクティブにするための“道具”として位置づけた。そこが新しかった。
したがってクロスロードの駆動方式は4WDのみではなく、FFも設定。悪路よりも都会をメインステージに設定していた。
SUVらしさを何より感じさせたのはスタイリングだった。エクステリア、インテリアともに力強い印象の直線基調で仕上げ、さらにセンターピラーやウィンドウ回りの彫りを深くし、インパネ回りを立体造形とすることで、独自の存在感、逞しさを演出した。ボディサイズは全長×全幅×全高4285×1765×1670mm。最低地上高は185mm。クロスロードのボクシーで背の高い造形は、通常のハッチバックモデルや、ミニバンなどと明らかに違うアクティブなイメージを発散する。
特徴は、全長が4265mmとコンパクトなこと。幅こそ1765mmと3ナンバー規格だったが、全長が短いため都会の雑踏の中でも抜群の取り回し性を示した。最小回転半径は5.3m。フロントのコーナー部を斜めにカットする“面取り処理”により数値以上に小回りのきく印象をドライバーに与えたのも魅力だった。
スタイリッシュで、取り回しに優れるだけでも大きな魅力にも関わらず、クロスロードには、さらに3列シート/定員7名という武器があった。これはミニバン作りに長けたホンダならではのパッケージング技術の成果だった。通常ではカーゴスペースになる空間に、折り畳み式のサードシートを巧みに配置。7名乗車を可能にしていた。さすがに3列目シートの空間はタイトで、大人には補助席といったイメージだったが、それでもいざという時に7人乗れるメリットは大きかった。
クロスロードのラインアップは、18L、18L・Xパッケージ、18X、20X、20Xiの5グレード構成。駆動方式は18L系がFFのみ。他のグレードはFFと4WDが選べた。4WDシステムは、通常はほぼFF状態で走行し、発進・加速時や雪道などの状況に応じて後輪にも適切な駆動力を瞬時に配分するリアルタイム4WDを採用。車両挙動安定装置のVSAには、坂道発進時、ブレーキペダルから足を離しても、一時的にブレーキ圧を保持するホンダ初のヒルスタートアシスト機能を盛り込んでいた。都会派SUVとはいえ、4WD仕様の実力は十分なポテンシャルを備えていた。
パワーユニットは排気量1799ccの直4DOHC16V(140ps)と、1997ccの直4DOHC16V(160ps)の2種。トランスミッションは全車が5速ATを組み合わせる。
クロスロードは、ホンダらしいアイデアを満載したニューエイジSUVの代表だった。デビュー当初の月間販売目標は3000台。だが、周囲の期待に反して販売は伸び悩む。クルマ自体の完成度は高く、走りは軽快な印象。燃費もけっして悪くなかった。販売が低調だった原因は、ユーザーニーズを“先取り”しすぎていた点にありそうだ。
一般的に“半歩先”のユーザーニーズを実現したクルマは成功作となるが、それよりも進んだ“一歩先”を行くモデルは、ユーザーの関心を獲得出来るかどうか未知数。クロスロードは残念ながら、ユーザーが“クロスロードがもたらす生活の広がり”を想像できなかったようだ。コンパクトサイズのクロスオーバーSUV人気は2015年以降に爆発する。クロスロードは、デビューが早すぎたに違いない。その証拠に中古車市場では新車時以上に高い人気を維持し続けている。