99トヨタ・ヴィッツvs01ホンダ・フィット 【1999,2000,2001,2002,2003,2004,2005,2006,2007】
新時代を創出した2台のエポックコンパクト
1990年代後半の日本市場における1〜1.3Lクラスのコンパクトカーは、ハイトワゴンの軽自動車と上級の魅力的な小型車の間に挟まれ、地味な存在として見られがちだった。価格の安さを理由に選ぶお買い得車……そんなイメージが根強かったのである。
一方、社会状況としては京都議定書に代表されるように地球温暖化による世界規模での環境異変が本格的に問題視され始め、またクルマ社会では欧州地域などを中心に高効率で低燃費のコンパクトカーが見直されつつあった。これからの環境時代にふさわしい世界に通用する21世紀型のコンパクトカーを、早急に設定する必要がある−−そう判断したトヨタ自動車と本田技研工業のスタッフは、実質的にスターレットやロゴの後継を担う新型車の開発に鋭意勤しんだ。
トヨタの新世代コンパクトカーは、1999年1月に「ヴィッツ」の車名で市場に放たれる。
新しいコンパクトカーを企画するに当たり、開発陣は「世界に通じるコンパクトクラスの新ベンチマーク」を商品コンセプトに掲げ、エンジンやシャシーなどのメカニズム関連をすべて新設計する。1SZ-FE型997cc直列4気筒DOHC16V・VVT-i(70ps/9.7kg・m)の新エンジンは、熱歪みが小さいコールドボックス法の鋳造技術を用いて公差をより少なくすることで、薄肉化を実現するなどの小型・軽量対策を施した。組み合わせるトランスミッションには5速MTのほか、先進のフレックスロックアップを組み込んだ“Super ECT”(電子制御4速AT)を設定する。サスペンションは、前マクファーソンストラット/後トーコレクト機能付きトーションビームを新設計した。
スタイリングについては様々な案の中から欧州デザインセンター(EPOC)の提案を採用し、洗練された3ドア/5ドアハッチバックフォルムに仕立てる。基本パッケージは、前後オーバーハングを切り詰めて全長を短く、全幅を広めに、高さ方向には余裕を持たせて設定した。キャビンスペースは、大人4名が快適に過ごせる空間を確保。ダッシュパネルは鳥が羽を広げたようなラウンディッシュで先進的なデザインにまとめ、ドライバーの視線移動が少なくて済むデジタル式センターメーターを装備した。
既存のコンパクトカーにはないシックで上品な外観に快適な室内空間、そしてフラット感が高い乗り心地を有したヴィッツは、たちまち市場での大人気を博し、月販目標の9000台を大きく上回る1万台オーバーを記録し続ける。また、1999-2000年の日本カー・オブ・ザ・イヤーをプラッツ/ファンカーゴとともに受賞した。
2001年6月になると、新開発のグローバル・スモールプラットフォームを採用したホンダの新世代コンパクトハッチバック車の「フィット」が市場デビューを果たす。新プラットフォームは燃料タンクを車体中央に配したセンタータンクレイアウトで仕立て、そのタンクの四方を囲むようにクロスメンバーとフロアフレームをセット。同時に、Gコントロール技術を駆使した衝突安全ボディの構築やショートノーズ設計による全長の抑制、i-DSIエンジン(L13A型1339cc直列4気筒OHC。86ps/12.1kg・m)および前後サスペンションユニット(前マクファーソンストラット/後H型トーションビーム)のコンパクト化などにより、高剛性かつスペース効率に優れる基本骨格を実現した。
エクステリアに関しては“ZENSHIN(全身、前進、全新)キャビンフォルム”をコンセプトに、基本骨格を活かしたワンモーションスタイルで構成する。さらに、空力特性も徹底追求して燃費と静粛性の向上を図った。インテリアについては、“ダイナミックレイヤードスタイル”をコンセプトにデザイン。内装全体に大胆な放射物のモチーフを採用し、さらにメタリックパネルやアルミ調独立3眼メーターなどを装備してスポーティなイメージを主張する。簡単操作で4つのモードを可能にした“ウルトラシート”を組み込んでユーティリティ性能を引き上げたことも、新世代コンパクトカーならではのアピールポイントだった。
存在感のあるスタイルにハイトワゴン並みの利便性の高さを誇ったフィットは、デビューと同時に高い支持を獲得。発売後1カ月の受注は月販目標の8000台を大きく上回る約4万8000台を記録する。また、2001-2002年の日本カー・オブ・ザ・イヤーにも輝いた。
新しいコンセプトでコンパクトカーの復権を図ったヴィッツとフィットは、デビュー後も着実に改良の歩みを続け、販売台数を伸ばしていく。そしてヴィッツは2005年2月、フィットは2007年10月に正常進化の第2世代へと移行したのである。