グロリア 【1979,1980,1981,1982,1983】

国産初のターボエンジンを搭載した第6世代

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1980年代に向けた上級乗用車の開発

 1971年2月にセドリックの兄弟車となって以来、日産プリンス系販売店の旗艦モデルとしてリリースされ続けてきたグロリアは、来るべき1980年代に向けてフルモデルチェンジが画策される。1980年代をリードできる高級乗用車の姿とは−−。この課題に対して開発陣は、自社の技術力の高さを市場に示す“ハイテク”装備の積極的な採用を決断する。同時に内外装についても、新しいアプローチの高級感を模索した。

 シャシーに関しては基本的に従来型を踏襲しながら、リアサスペンションの5リンク化やダブルウイッシュボーン式フロントサスペンションのテンションロッドの追加、新高張力鋼板の採用などを実施し、乗り心地や耐久性の向上を図る。搭載エンジンはL28E型2753cc直6OHC(145ps)を筆頭に、L20E型1998cc直6OHC(130ps)、L20型1998cc直6OHC(115ps)、SD22型2164cc直4OHVディーゼル(65ps)を設定。さらに、営業車用としてZ20P型とL20P型の2エンジンを用意した。また、L28E型にはエンジン集中電子制御システムのニッサンECCS(Electronic Concentrated Engine Control System)を組み込む。エンジンの点火時期のほか、燃料噴射量、アイドル回転数、排気ガス還元量などをマイクロコンピュータの演算によりコントロールするこのシステムは、燃費や出力の向上とともに排出ガスの低減も図ることができる世界初採用の先進機構であった。開発陣は操舵系や制動系にも注力する。パワーステアリングには、新開発のバリアブル・ギア・レシオおよびエンジン回転感応型ポンプを採用。室内のハンドル自体にも、新開発のバランススプリング付きチルト機構を組み込んだ。ブレーキ関連では、L28E型エンジン搭載車に四輪ディスクブレーキを装着。また、コラムチェンジ式AT仕様には足踏み式パーキングブレーキを設定した。

シャープな印象の上質デザインを採用

 スタイリングは「近代感覚を盛り込んだ格調の高いスタイルの創出」を目標に、水平基調のシンプルなボディラインを構築する。ボディタイプは従来型で用意していた2ドアハードトップは廃止し、4ドアハードトップと4ドアセダン、ワゴン/バンを設定。セダンはオペラウィンドウを、ハードトップはクリスタルカット風のリアウィンドウを、ワゴンとバンは2段ルーフとパノラマ風リアウィンドウを組み込んだ。フロント部は横桟パターンを基調としたグリルに、セダンが角型4灯式のヘッドランプを、ハードトップは角型2灯式のハロゲンヘッドランプを装着。また、ワゴンは角型4灯式、バンは丸型4灯式のヘッドランプを採用する。

各ボディタイプに分けて外装パーツをアレンジしたのには、それぞれのキャラクターをより鮮明にする狙いがあった。一方の内装では、「高級車にふさわしいローデシベル空間の実現」をテーマに掲げて開発を進める。まずボディ各部材の結合部やサスペンション取付部の剛性をアップさせ、さらにダッシュボードなどの内装パーツの設置部も大幅に見直して室内の静粛性と耐振性の向上を図った。シート関連では前席セパレートシートのフルフラット化や上級仕様でのグランドシートの装着、調整式リアヘッドレストの採用などを実施。装備面ではフルオートデュアルエアコンの採用や前席足元専用エアコン吹き出し口の設置、ソフトパッドと立体木目との調和を図った新デザインのインパネの装着、ドライブコンピューター/アナログ式電子表示チューナーラジオ/テープカウンター付きカセットステレオの設定などを行った。

キャッチフレーズは「サイレント・グロリア」

 1980年代に向けた日産の新しい高級乗用車のグロリア(とセドリック)は、430の型式を付けて1979年6月に市場デビューを果たす。車種展開は4ドアハードトップ/4ドアセダン/ワゴン/バンの4ボディに、L28E型/L20E型/L20型/SD22型/Z20P型/L20P型という6機種のエンジンを用意(セドリックにはSD20型も設定)。グレード構成は計60タイプのワイドバリエーションを誇った。

 6世代目となる430型系グロリアには、「サイレント・グロリア」のキャッチコピーが冠せられる。従来の330型系、さらに重量増加のデメリットはあったものの騒音振動対策では有利なフレーム付きシャーシーを採用していた当時のトヨタ・クラウンを凌駕する静粛性と耐振性を成し遂げた事実を、このフレーズで強調した。ちなみに、430型系グロリアのイメージキャラクターにはゴルフ界の“帝王”ことジャック・ニクラウスさんが起用されたが、1980年の全米オープンにおいて彼と激戦を演じた青木功さんはHB型系マツダ・ルーチェに登場していた。奇しくも、日本の自動車市場でライバル対決が再現されたのである。

 市場に放たれた430型系グロリアは、その先進性と巧みなラグジュアリー感の演出が高く評価され、好調な販売成績を記録する。とくにハイテク装備を満載した最上級グレードのブロアムの人気が高く、ユーザーから「コンピューター付きのクルマ」と称された。

1980年代の幕開けを告げた“夢のエンジン”の登場

 出足好調な430型系グロリアの存在感をさらに高めようと、日産は矢継ぎ早に高性能モデルの追加を実施していく。まず1979年10月には、国産乗用車初の6気筒ディーゼルエンジンであるLD28型2792cc直6OHCディーゼル(91ps)を搭載した仕様を、4ドアハードトップ/4ドアセダン/ワゴンに設定する。第2次オイルショックの最中に登場した経済性に優れる高級ディーゼル車は、市場から高く評価された。
 さらに2カ月ほどが過ぎた1979年12月になると、またもや国産乗用車初のエンジンを積み込んだ車種が、4ドアハードトップ/4ドアセダンに設定される。既存のL20E型に排気エネルギーを活用する“ターボチャージャー”(ギャレットエアリサーチ社製)機構を組み込んだL20ET型1998cc直6OHCターボ仕様が登場したのだ。

キャッチフレーズは、「1980年代の幕開けを告げる“夢のエンジン”」で、パワー&トルクは145ps/21.0kg・mを発生する。車種展開は、4ドアハードトップのターボS/ターボSGLエクストラと4ドアセダンのターボSGLエクストラを用意。ターボSでは四輪ディスクブレーキや強化型リアスタビライザー、ミシュラン製ラジアルタイヤ(195/70HR14)などが組み込まれた。ターボエンジンを採用したグロリアは、5ナンバー規格で2Lオーバーエンジン搭載車より速いモデルとして、たちまちヒット作に昇華する。そして1980年代初頭には、430型系グロリアのイメージリーダーに成長していった。

最後の“ストレート6”グロリアとなった430型系

 ターボエンジンの設定以降も、開発陣は着々と430型系グロリアの完成度を引き上げていく。1980年2月には、LD28型エンジン搭載車に5速MT仕様を追加。同年4月にはターボのブロアムとAT仕様、さらに固定式ガラスルーフを備えた“スタールーフ”をリリースする。同年8月になると、LD28型エンジン搭載のワゴン/バン5速MT仕様が発売された。

 初のマイナーチェンジは1981年4月に実施される。外装ではカラードバンパーなどを新採用して見栄えをアップ。内装ではオーディオや空調類の使い勝手を見直し、快適性を向上させる。さらに、L20ET型エンジンのノックセンサーの装着やL20E型エンジンのECCSの採用など、メカニズム面の改良も図られた。1982年6月になると、待望のロックアップ機構付き4速ATがL28E型やL20ET型などに組み合わされる。同時に、L20ET型エンジンにECCSが、上級グレードにオートスピードコントロール装置やボイスコンパニオンなどの先進アイテムが設定された。
 高級乗用車としての魅力度を着実に高めていった430型系グロリアは、1983年6月になると全面改良が実施され、7代目となるY30型系へ移行する。このY30型系ではメインのガソリンエンジンが一新され、従来のL型系直列6気筒から新世代のVG型系V型6気筒へと切り替わった。結果的に430型系は、L型ストレート6ガソリンエンジンを積む最後のグロリアとなったのである。