SC 【2005,2006,2007,2008,2009,2010】
ソアラ後継、優雅な電動デタッチャブルクーペ
レクサスSCは、トヨタの高級車ブランド「レクサス」の日本展開に伴い2005年8月に発売された最上級4シータースペシャルティである。SCのネーミングは“スポーツクーペ”を意味する。ちなみにSCはブランニューモデルではなかった。すでに2001年から販売されていた4代目トヨタ・ソアラのマイナーチェンジ版だった(ソアラはSCの発売を機に販売終了)。というのもSCは、日本以外のマーケットでは当初からレクサスの一員として販売されており、日本でのレクサス・ブランドの展開スタートに合わせて、グローバル市場との統一を図ったからである。
SCは、それまで販売されていたソアラとは細かな部分で相違点があった。違いを説明しよう。SCはソアラと比較してシャープな印象を与えるヘッドランプデザインを採用。アルミホイールの意匠も一新していた。メカニズム面ではトランスミッションが、ソアラの5速ATに対し6速ATとなった。もちろん各部のエンブレムも“レクサス”に変更している。
とはいえSCは、その伸びやかなスタイリング、凝った電動オープン機構、シルキースムーズは4.3ℓのV8ユニット、豪華で先進的なインテリア……主要な魅力を構成するすべての要素ソアラから踏襲していた。当然といえば当然だがSCは、それまでのソアラの延長線上にあるクルマだったのである。
SCの魅力を理解するためには、4代目ソアラのプロフィールを知ることが必要だろう。
4代目ソアラは、1999年の東京モーターショーに出展されたコンセプトカー「レクサス・スポーツクーペ」の市販バージョンだった。スタイリングはフランスのニースを拠点とするトヨタの欧州デザインセンターが担当。デザイナーは大ヒット作になった初代ヴィッツを手掛けたことで有名なギリシャ人のソティリス・コヴォス。その造形は、アメリカ風でも、ヨーロッパ風でも、日本風でもない独特の世界である。古典的な美と先進イメージが織りなす新たなクーペデザインとして世界的に注目を集めた。
ルーフの精緻な開閉システムも大きな個性だった。スムーズな動作と優雅な動きを工夫するため、専用ECUによるスロースタート&スローストップ制御を採用。スイッチを押すだけでルーフが約25秒の作動時間で開閉した。合計8個のモーターを駆使し、ルーフ、ラゲッジ、パッケージトレイリンクで構成した機構は、トヨタの高い技術力の証明だった。ルーフの滑らかな動きと、高い信頼性は、世界の逸品といえた。
パワーユニットは、トヨタの最上級ユニットである4292ccのV8DOHC32V。280ps/5600rpm、43.8kg・m/3400rpmのスペックを誇っただけでなく、圧倒的な静粛性と豊かなトルクがセールスポイントだった。滑らかな回転フィールは格別。洗練という言葉がまさにぴったりのエンジンだった。
プレミアムブランドのパーソナルクーペは、固有の強い個性と洗練、そして高い技術力の存在が不可欠である。4代目ソアラは、そのすべてを高次元で満足させていた。ライバルのメルセデスSLや、BMW6シリーズと比較しても、勝るとも劣らない、独特の世界観の持ち主といえた。
2005年に登場したレクサスSCは、ソアラ以上に上質な味わいの濃いモデルだった。各部の作りはより入念になり、走りは一段と滑らかさが向上。塗装も光沢が増しているように感じられた。クラフトマンシップ溢れるテーストは、工業製品というより工芸品という言葉が似合った。
走りはクルーザー感覚。トルクの波に乗って、静かに心地よく加速する様子は、まさに大海を難なく進む大型クルーザーをイメージさせた。高速道路を利用したロングクルージングや、郊外のオープンロードをゆったりと流すシーンが最高に気持ち良かった。
オープン走行時の風のコントロールも見事だった。コクピットに巻き込む風は穏やか。シートヒーターを利用すれば真冬でもやせ我慢なしにフルオープンが楽しめた。ボディ剛性は高く、走りはじめるとすぐに安心感が伝わってくる点も魅力のひとつだった。
レクサスSCは、年次改良で毎年完成度を高める。しかし2010年7月末で惜しまれながら生産を終了する。日本では4代目ソアラとして誕生し、SCとしてその生涯を閉じたラグジュアリークーペは、優雅という言葉の意味を教えてくれる名品だった。