アルト 【2009,2010,2011,2012,2013,2014】

低燃費仕様の“エコ”モデルを設定した第7世代

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2010年代に向けたベーシック軽自動車の提案

 会社のメッセージに“小さなクルマ、大きな未来”を掲げるスズキは、2009年開催の第41回東京モーターショーに「新型アルト・コンセプト」を出展する。「省資源・低燃費で気軽に使え、世代を超えて愛される軽自動車」を基本コンセプトとし、薄いブルーのメタリックカラー(市販時はエアブルーメタリックと呼称)を纏った新型アルトのコンセプトモデルは、来るべき2010年代のベーシック軽自動車の姿を象徴する1台に仕立てられていた。

 新しいアルトを企画するに当たり、スズキの開発陣は1)低燃費と環境へのこだわり、2)愛着がわく親しみのもてるデザイン、3)基本性能の向上と使い勝手への配慮、という3項目の実現を目標に掲げる。当時のスタッフは、「初代モデルから受け継いできた運転のしやすさ、使い勝手のよさ、経済性の高さを、さらに高い次元に引き上げることを狙いとした」と説明。さらに「もちろんスズキらしく、コストを抑えながら知恵を絞って各部の内容を練っていった」とも付け加えた。

環境へのこだわりと基本性能の向上を目指して--

 新型アルトの具体的な特長を見ていこう。基本ボディについては、鋼板の板厚の見直しと高張力鋼板の拡大展開などによって、剛性アップと軽量化の両立を成し遂げる。同時に、風洞実験とコンピュータ解析を駆使して空力性能に優れるハッチバックフォルムを構築した。また、安全性能の向上を目指して、スズキ独自の軽量衝撃吸収ボディ“TECT”や歩行者傷害軽減ボディを採用する。シャシー面では、2400mmのロングホイールベースを確保したうえで専用セッティングの前マクファーソンストラット/後アイソレーテッド・トレーリングリンク(I.T.L.)の懸架機構を導入、安定感のある乗り心地を実現した。

 搭載エンジンはインテークマニホールドの変更などにより吸気効率を高めたVVT(可変バルブタイミング)付きのK6A型658cc直3DOHC12Vユニット(54ps/6500rpm、6.4kg・m/3500rpm)を採用し、トランスミッションには副変速機構付きのCVTとロックアップ領域を拡大させた4速AT、さらに5速MTを組み合わせる。駆動機構にはFFとフルタイム4WDを設定。タイヤには転がり抵抗を低減するコンパウンドを配合した大径タイヤ(145/80R13 75S)を装着した。

親しみやすさを重視したキュートなデザイン

 エクステリアに関しては、世代を超えて受け入れられる親しみやすいデザインを目指して仕立てられる。フロントフェイスは紡錘型ヘッドランプを組み込んだラウンディッシュな造形でアレンジ。サイドは前後のタイヤをつなぐ伸びやかなプレスラインと豊かで張りのあるドア断面で構成した。リアは特徴的な縦長コンビネーションランプや後端近くまで伸ばしたルーフエンドラインが個性を主張する。ボディカラーは新色のシャイニーグリーンメタリックを含めて全6タイプを設定。

 インテリアについては、親しみやすさと機能性の両立をテーマにデザインを手がける。インパネ全体は丸みを帯びた柔らかなフォルムとしながら、横基調の造形を取り込むことで室内の広さを表現。スイッチ類の操作性を吟味することで、デザイン性と使い勝手を融合させた。キャビン空間も従来よりも拡大し、同時に三角窓の採用やシートスライドの増量、シート面圧分布の改良、ドア開口部の拡大およびフロア段差の縮小などによって乗員の居住性と乗降性を引き上げる。さらに、電動パワーステアリングの改良やキーレスプッシュスタートシステムの採用によって使い勝手も向上させた。

 7代目となる新型アルトは、2009年12月に市場デビューを果たす。グレード展開は上位からX/G/F/Eの4タイプとバン仕様のVPをラインアップし、全グレードにFFと4WDを設定。車両価格は67万7250円~115万7100円と、非常にリーズナブルな設定としたことも7代目の訴求点だった。

ガソリン車トップの低燃費モデルのデビュー

 7代目アルトのデビューから2年弱が経過した2011年11月、先進技術を満載した低燃費モデルが発表(発売は12月)される。当時のガソリン車トップの燃費性能である30.2km/L (JC08モード走行)を実現した「アルトエコ」が登場したのだ。グレード展開は上級仕様のECO-SとベーシックモデルのECO-Lをラインアップした。ちなみに、それまでのガソリン車トップの低燃費モデルは、2カ月前にデビューしていたダイハツの「ミライース」(JC08モード走行燃費30.0km/L )だった。

 燃費トップの座を奪われたダイハツは以後、ミライースの燃費引き上げを相次いで実施。これに応えるようにスズキもアルトエコのさらなる低燃費化に注力し、結果的に2010年代前半はアルトエコvsミライースの激しい燃費競争が展開されることとなったのである。

停止直前からエンジンを停止させる新機構を採用

 アルトエコに話を戻そう。同車の低燃費化を図るために開発陣が改良ポイントは、動力源から外装、装備類に至るまで多岐に渡った。搭載エンジンは新世代のR06A型658cc直3DOHC12V・VVTをベースにピストンのコーティングパターンやピストンリングの表面処理などを変更してフリクションを減らした専用ユニット。パワー&トルクは52ps/6000rpm、6.4kg・m/4000rpmを発生する。組み合わせるトランスミッションには低粘度オイル等を導入した副変速機構付CVTを採用、同時にエンジンとCVTの協調制御の緻密化も図った。

 さらに新たなエコ機能として、停車直前の減速時(時速9km/h以下)からエンジンを停止する新アイドリングストップ機構や完全に停車する前でもエンジン再始動を可能にする新機構スターターモーター、アイドリングストップインジケーター、LED化したリアコンビネーションランプ&ハイマウントストップランプ、省電力タイプの燃料ポンプシステムなどを装備した。

 燃料消費の低減に大きく貢献する軽量化については、軽量コンパクトなRA06A型エンジンの採用やエンジンルームまわりの設計変更、サスペンション部品やドライブシャフトなどの見直し、フロントバンパーおよびフルホイールキャップのデザイン変更、シートクッションパッドの低密度化およびシートバック構造のリファイン、トランクボードの材質変更などを行い、最終的に標準車のGグレード(FF/CVT)比で-20kgを達成する。走行抵抗の低減にも力を入れ、空気抵抗ではボディ高の引き下げ(-15mm)や新造形の空力バンパーの装備、回転抵抗ではハブ一体構造車軸ベアリングのフロントへの採用やリア車軸ベアリング構造の見直し、転がり抵抗では新開発のトレッドゴムを内蔵した低燃費タイヤの装着、引きずり抵抗では十分な制動力を確保したうえで摩擦係数を見直したブレーキパッドの導入などを実施した。

燃費性能の向上を追求して緻密な改良を実施

 アルトエコの進化は、デビュー後も意欲的に続いた。2013年2月には、スズキの次世代環境技術である「スズキグリーンテクノロジー」を導入するなどして33.0km/L(JC08モード走行)の低燃費を達成した改良版がデビューする。採用された新技術は、エネチャージと進化した新アイドリングストップシステムだ。エネチャージは減速エネルギーを利用して発電・充電するスズキ独自の減速エネルギー回生機構。短時間でより多く発電できる高効率・高出力のオルタネーターに加えて、アイドリングストップ車専用の鉛バッテリーと効率よく充電できるリチウムイオンバッテリーを搭載し、発進および走行時の発電を最小限に抑えることで燃料消費を低減させた。新アイドリングストップシステムでは、減速時のアイドリングストップをより長く、より効率的に行うように改良。停車前の減速時にアクセルOFFのときから燃料カットし、さらにブレーキを踏んで時速13km/h以下になると自動でエンジンを停止する仕組みとした。さらにアイドリングストップ中に蓄冷材を通した冷風を室内に送ることでキャビン内の快適性をより長く持続させるエコクールも新規に採用する。

 ボディとシャシーに関しては、各部を徹底的に見直して材料や構造の変更などを行い、最終的に従来比で-20kgの軽量化を実現。パワートレインでは、エンジンのタイミングチェーン幅の縮小によるフリクション低減や薄型軽量ラジエーターの導入をはじめとする軽量化を実施する。さらに、CVTの変速制御の最適化も行った。

 2013年11月になると、改良版アルトエコの燃費は35.0km/L(JC08モード走行)に達する。変更ポイントはパワートレインに集中し、エンジン圧縮比のアップ(11.0→11.2)やピストン頂面の変更(頂面を滑らかにしつつ、なだらかな凹面形状に仕立てる)、低フリクション・エンジンオイルの採用、エンジンオイルポンプの変更、VVT作動領域の拡大、CVTの変速制御の見直しなどによって低燃費化を実現した。
 誰もが使いやすく、しかも気軽にエコドライブができるよう、緻密なリファインを図っていった7代目アルト。小さなクルマで大きな未来を創るという信念は、このクルマに凝縮されていたのである。