ミニバン人気がすっかり定着した2000年代初頭の日本の自動車マーケット。このカテゴリーでオデッセイやステップワゴン、ラグレイト、ストリームなどをラインアップし、市場を牽引していたホンダは、既存モデルにはない新たなミニバンの形を模索していた。

　開発陣がこだわったのは、これまでにない移動の喜びを家族や友人が共有できるという視点。その実現のため、最終的に“3×2”パッケージのミニバンに仕立てる方針を打ち出す。また、既存の多人数乗り車にはないスポーティで躍動的なスタイリングや優れたスペースユーティリティ、スムーズかつクリーンな走行性能の実現も開発のターゲットに据えた。

　パッケージングに関しては、ホイールベース2680mmの7代目シビック（EU型系）用シャシーをベースに前3席／後3席の独立6座のシートを組み込み、そのうえで前後センターシートにロングスライド機構（前270mm／後170mm）を持たせてV字シートレイアウトを創出する。シート自体はフレーム幅をコンパクト化しながらも、座面幅やシート厚などをしっかりととることで快適な着座感を実現。アレンジ性にもこだわり、3座独立ダイブダウン・リアシートや前センターシート背面大型アームレスト機能などを取り入れた。このシート構成を活かせるよう、内装デザインにも工夫を凝らす。デザインテーマは“モダン＆ハイクオリティ”。インパネは横基調の伸びやかな造形で構成し、同時に光沢のある加飾パネルを配して上質感を演出する。また、インパネシフトの採用やインパネ下部の削ぎ落としなどによって広い足元空間を実現した。

　エクステリアについてはショート＆ワイドフォルムをベースに、スポーティかつダイナミックなスタイリングで演出する。フロント部は角を落とした立体感のあるバンパーとエッジを利かせたヘッドライト、太い横バーを配したグリルなどで存在感のあるマスクを構築。サイド部は短い全長とウエッジシェイプによって躍動感あふれるクラウチングスタイルに仕立てた。リア部は斜めに切り落としたルーフエンドや低重心を強調したワイドスタンス、塊感のあるコンビネーションランプなどで安定感を打ち出す。ボディサイズは全長4285×全幅1795×全高1610〜1635mmと、縦横比の小さいディメンションに仕上げた。

　搭載エンジンは2.0i-VTEC（K20A型1998cc直4DOHC16V・i-VTEC）と1.7VTEC（D17A型1668cc直4OHC16V・VTEC）の2機種を設定し、駆動機構にはFFとリアルタイム4WDを設定する。組み合わせるミッションは2.0i-VTECのFFモデルに5速ATを、それ以外の仕様に4速ATを採用した。サスペンションはフロントにトーコントロールリンク・ストラット、リアにリアクティブリンク・ダブルウィッシュボーンを導入し、ロール方向に対して安定感のあるワイドトレッドの特長を活かして柔らかめのセッティングを施す。

　新ジャンルの3×2パッケージミニバンは、2004年7月に市場デビューを果たす。車名はひとりから6（six）人まで楽しさを自由に編集（edit）することができる新しいミニバン、という意味を込めて「Edix（エディックス）」を名乗り、キャッチフレーズには「ミニバンの楽しさを、席替えしよう」と冠した。車種展開は非常にシンプルで、2.0i-VTECエンジン搭載の20Xと20X 4WD、1.7VTECエンジン搭載の17Xと17X 4WDという計4グレードで構成した。

　市場に放たれたエディックスは、個性的なパッケージングやスタイリングで注目を集め、とくにロングボディのミニバンの使い勝手に不満を持っていたユーザーから好評を博す。メーカー側もこの人気に応えるよう、市場の要請に則した年次変更を積極的に実施。2005年12月にはSパッケージの追加設定やスマートキーシステムの採用などを、2006年11月には2.4i-VTECエンジン（K24A型2354cc直4DOHC16V・i-VTEC）を積む24Sグレードの設定（1.7VTECエンジン仕様は廃止）や内外装の一部意匠変更などを、2007年12月には特別仕様車の20X／20X 4WDスタイルエディションの発売を行った。

　定番の3列シート式ミニバンを好むユーザーには訴求しなかったものの、新鮮な車両コンセプトでコアなファンを獲得したエディックス。2009年8月には販売を終了するが、その評価は高いレベルを維持し続けたのである。