チェイサー 【1996,1997,1998,1999,2000】
ドライバーの心を高ぶらせた“走りのセダン”
1996年9月に登場した第6世代のチェイサーは、歴代モデルで最もスポーティなキャラクターを持っていた。クルマとしての基本構成は、従来どおりマークⅡ、クレスタと基本コンポーネンツを共用したトヨタのアッパーミドルクラスを守るハイオーナーカーである。しかし明らかに走りを重視していた。スポーティさの訴求は、イメージ面を主体にメカニズムがそれを補完した。
新型のキャッチコピーは“このクルマで走りたい”。カタログでは「クルマとは便利で快適な乗り物以上のもの、チェイサーは忘れかけていたドライビングに対する歓びと、“美しいセダン”に乗りたいという夢を甦らせる存在」と語りかけた。
新型のスポーティさは、なによりスタイリングが物語っていた。フロントマスクは4灯式ヘッドランプとブラック形状のマスクで構成するシャープな造形。ボディタイプはスタイリッシュな4ドアピラードHTで、メッキモールなどの飾りを極力控え、ボディパネルそのものの造形と質感で上質なイメージを表現した。新型の精悍なルックスは、いかにも走りが良さそうなイメージを見る者に与えた。
ボディサイズは全長4715mm、全幅1755mm、全高1400mm(FR)。全長はマークⅡやクレスタより一回り短い。つまり贅肉を削ぎ落したプロポーションだったのである。
ラインアップは、中心モデルのツアラー系と、ジェントルなアバント系、そして実用グレードのXLの3シリーズ構成。パワーユニットは6気筒が主体だった。排気量2491ccの直列6気筒DOHC24Vターボ(280ps)を筆頭に、自然吸気仕様は排気量2997cc(220ps)、2491cc(200ps)、1988cc(140ps)の3タイプを設定。さらに経済性を求めるユーザー向けに排気量2446ccの直列4気筒ディーゼルターボ(97ps)を用意した。トランスミッションは4速ATと5速MT。上級グレード用の4速ATは電子制御タイプとなり、5速MTは280psを発生する最強のターボユニットと、140psの2リッター自然吸気モデルで選べた。駆動方式はFRを基本に、ディーゼルでは4WDも設定する。
新型のスポーティなキャラクターが鮮明に伝わってきたのは、リアスポイラー、スポーツシート、リアルカーボンインテリアパネルなどを装備したツアラー系だった。なかでもターボ仕様のツアラーVは魅力的な存在だった。280psの圧倒的なパワーはもちろんだが、38.5kg.mという自然吸気ユニットなら4リッタークラスに匹敵する豊かなトルクを、僅か2400rpmで生み出し。まさにドライバーの意のままの奔放な加速を実現したからである。絶対的なパフォーマンスがリアルスポーツの域に達していただけでなく、優れたレスポンス、高級サルーンに求められる静粛性を同時に実現した珠玉のユニットだった。
速度変化に応じて、油圧をコンピュータ制御し優れた応答性とナチュラルな操舵感を実現した新プログレッシブ式パワーステアリングや、適切に固められた4輪ダブルウィッシュボーン式足回りもアップテンポなドライビングをしっかりとサポートした。ツアラーVは、走ることそのものが目的のドライブに出掛けたくなる、そんな生粋のスポーツサルーンだったのである。
新型のスポーティな性格をしっかりと支えたのがハイレベルな安全設計だった。ボディは安全基準を上回る衝撃吸収性を実現したトヨタ独自のGOA(Global Outstanding Assessment)構造。運転席と助手席のデュアルSRSエアバッグに加えサイドエアバッグを設定し、全席に3点式ELRシートベルトを装備した。ブレーキは4輪ABS付き。一部グレードにはトラクションコントロールやVSC(横滑り防止装置)を用意していた。チェイサーの走りは、すべてが先進の安全設計が基本となっていた。
6代目チェイサーは、キャラクター明快なスポーツサルーンとして好評を得る。しかしミニバンをはじめとするマルチな使用価値を持つクルマが人気を集める時代のなかで、販売成績はさほど芳しくなかった。BROS車のマークⅡは2000年10月に新型に移行したが、チェイサー(そしてクレスタ)は、このモデルがラストモデルとなった。
6代目のチェイサーは、スポーティなキャラクターをモータースポーツで実証する。1994年から開催がスタートした「全日本ツーリングカー選手権」の1997年度チャンピオンマシンに輝いたのである。
全日本ツーリングカー選手権は、基本的に4ドアボディで、エンジン排気量2リッター以下、フロントエンジンのマシンを対象にしたレース。トヨタからは当初コロナ、その後チェイサーやコロナExivが出場し、ライバルは日産プリメーラ、ホンダ・アコードだった。チェイサーが参戦を開始したのは1997年シーズンから。マシンは市販モデルでは設定のない4気筒の3S-G型ユニットを搭載していた。1998年には関谷政徳選手のドライブで勝利を重ね、シリーズチャンピオンに輝く。ちなみに1997年4月にはレースマシンと同様の大型リアスポイラーを装着した特別仕様車が「TRDスポーツ」の名で販売された。