スプリンター・マリノ 【1992,1993,1994,1995,1996,1997,1998】

スタイル重視。シリーズ初の4ドアHTモデル

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クラス初の4ドアハードトップ車の開発

 1990年代初頭の日本の自動車市場は、後に“バブル”と呼ばれる好景気の最終段階に入っていた。その状況下で高い人気を博していたのが、ハイソカーに代表される4ドアハードトップ車。窓枠がないスタイリッシュかつスポーティなスタイリングが、ユーザーから熱い支持を集めたのだ。
 4ドアハードトップの人気は、コンパクトカークラスにもいずれ波及するはず−−。多角的なマーケティング調査からそう結論づけたトヨタ自動車のスタッフは、同社の最量販車であるカローラ/スプリンターの次期型で4ドアハードトップモデルを設ける決断を下す。

 開発テーマは「フレッシュな感性を持つヤングファミリー層にフィットする新しいクルマの提案」。具体的には、個性を主張するスタイリッシュな4ドアハードトップのエクステリア、乗員を優しく包み込む快適なインテリア、心ときめくアクティブな走り、最上レベルの安全・環境対策などの実現を目指した。また、車名に関しては独自のサブネームをつけて個性を強調。発売についても、4ドアセダン/2ドアクーペ(レビン/トレノ)と時期をずらすこととした。

“海の”を意味するサブネームを付けて発売

 コンパクトクラス初、そしてカローラ/スプリンター初となる4ドアハードトップモデルは、ベース車のE100系セダン&クーペの登場から11カ月あまりが経過した1992年5月に市場デビューを果たす。車名はカローラ・セレス/スプリンター・マリノ。セレスはスペイン語で“実りの女神”を指すCERESから、そしてここで取り上げるマリノはイタリア語で“海の”を意味するMARINOから命名された。

 スタイリングについては、コンパクトなキャビンに低くて流れるようなラインのルーフ形状、そして低重心のアンダーボディを融合させたピラード4ドアハードトップのフォルムを構築する。また、フロントセクションにはプロジェクター式ロービームを組み込んだフォグランプ一体式のヘッドランプを、リアビューには低くてスリムなテールエンドを採用してスポーティ感を強調した。同時に、マリノには独立タイプのフロントグリルや専用デザインのリアコンビネーションランプ&ガーニッシュなどを装着して個性を際立たせる。ボディサイズはセダン比で約100mm長く、60〜70mm低いディメンションに設定したインテリアは、室内全体を美しい曲線でまとめあげるとともに、1クラス上のハードトップ車にも匹敵する広いキャビンスペースを確保。また、車両情報表示の新機構としてマルチインフォメーションディスプレイをオプションで用意した。

 シャシーは熟成の前マクファーソンストラット/後ストラットの懸架機構を採用し、クルマのキャラクターに合わせて専用セッティングを施す。搭載エンジンは第2世代ハイメカツインカムの4A-FE型1587cc直4DOHC16V(115ps)と5A-FE型1498cc直4DOHC16V(105ps)、スポーティツインカムの4A-GE型1587cc直4DOHC20V・VVT(160ps)という計3機種を設定。トランスミッションは5速MTのほか、1.6LユニットのATに電子制御式4速ATのECT-Sを組み合わせる。グレード展開は4A-GE型エンジン搭載のG、4A-FE型エンジン搭載のX、5A-FE型エンジン搭載のFをラインアップし、全車ともにFFの駆動方式を採用した。

緻密な改良でポテンシャルをアップ

 スプリンター・マリノがデビューしてからしばらくすると、若者層の人気モデルは4ドアハードトップからレクリエーショナルビークル(RV)へと切り替わっていく。しかし、129〜185.3万円という手ごろな価格設定やスタイリッシュかつ使い勝手のいいボディサイズなどを特長としたマリノは、大きく販売台数を落とす上級4ドアハードトップ車群と比べて予想以上に健闘した。

 メーカー側もそのキャラクターを踏まえた改良を随時実施していく。まず1992年12月には、ブラックメタリックの専用色を採用した特別仕様車のブラックマリノをリリース。1993年5月にはエアコンの冷媒をR134aに変更するなどの一部改良を行う。1994年5月になるとマイナーチェンジを敢行し、内外装の意匠を変えて新鮮味をアップ。1995年5月にはセダンおよびクーペ系のフルモデルチェンジ(E110系)に伴い、エンジンやシャシーなど基本コンポーネントの改良を受ける。1997年4月にはデュアルSRSエアバッグの採用やGグレードのMTの6速化などを実施した。

 地道なリファインを続けてコンパクト4ドアハードトップ車としての実力を高めていったマリノ。しかし、RV人気に押されて販売台数は低迷し、またバブル景気の崩壊の影響もあって、車種整理の対象となってしまう。そして、1998年6月に生産を終了。後継車は設定されず、1代限りで車歴を終えることとなったのである。