117クーペ 【1968,1969,1970,1971,1972,1973,1974,1975,1976,1977,1978,1979,1980,1981】

パワフルな1949ccエンジンを積んだ最終モデル

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“変わらないこと”を価値にした117クーペの足跡

 いすゞ117クーペは、歴代日本車のなかで最も美しいクルマの1台である。1966年春のジュネーブ・ショーに「ギア・いすゞ117スポーツ」の名でデビューし話題を独占。1968年12月に市販が開始された、117クーペの初期型モデルは、G・ジウジアーロが手がけた流麗で複雑なボディラインを忠実に再現するため、半ば手作りで生産された。その後、生産技術の向上を背景に1973年3月に量産バージョンへと発展する。

 117クーペは、約4年周期でモデルチェンジを行っていた当時のライバル各車とは別格の存在として高い人気を確立する。気品あふれるスタイリングを愛する多くのファンに支えられ“変わらないこと”を大きな価値に独自のモデルライフを構築した。
 1977年にはボディラインをそのままにヘッドランプを角形に一新。翌1978年12月に、主力エンジンを1949ccに排気量アップし、昭和53年排出ガス規制に適合させた“スターシリーズ”に成長する。

多彩なグレードを用意したスターシリーズの魅力とは

 117クーペの長いモデルライフの中でも、スターシリーズは魅力的な存在だった。モデルラインアップは多彩で、1949ccエンジンは3種類のチューニングが存在した。上級バージョンが直列4気筒DOHCユニット(135ps/17kg・m)を搭載するXEとXG。販売主力となる直列4気筒OHC+インジェクション仕様(120ps/16.5kg・m)はXC-JとXC。そしてジェントルな直列4気筒OHC+シングルキャブレター(115ps/16kg・m)はXT-LとXTグレードを設定する。さらに廉価版として1817ccの直4OHC+シングルキャブレター(110ps/15.5kg・m)を積むXTも用意されていた。トランスミッションは5速MTと3速ATの2種。駆動方式は全車FRである。

 豊富なラインアップで最も走りが楽しめたのは、DOHCエンジンを積んだXGグレードだった。フロントがダブルウィッシュボーン式、リアが半楕円リーフ式の足回りは強化され、ショックアブソーバに減衰力可変タイプを採用。リアデフにはLSDが組み込まれた。装備は本革巻きスポーツステアリング、ヘッドランプウォッシャー、リアワイパーなどが標準となり、トランスミッションは5速マニュアルのみだった。XGの走りは骨太で、DOHCエンジンは実用域から太いトルクを発生。厳しい排出ガス規制に適応しながら力強いスピードの伸びが楽しめた。適度に固い足回りは高速クルージングでの安定性を高め、ワインディングロードでも優れたハンドリングを実現していた。

 一方117クーペ本来の美しいスタイリングと上質な味わいを堪能するなら、XT-Lグレードが最適だった。内外装は最上級モデルのXEと共通。本木目インテリアパネルをはじめ、パワーステアリング、電磁式ドアロック、4スピーカーカーステレオ、パワーウィンドウなど快適装備をすべて標準装備する。115psのキャブレター仕様エンジンはマイルドな性格だったが、ゆったりとした走りを楽しむには十分だった。

最終モデルで経済的なディーゼルが登場

 スターシリーズに進化した117クーペは1979年12月に最後のリファインを受ける。XC—Jグレードをベースにしたスペシャルグレード「ジウジアーロ」を追加。さらに経済性に優れたディーゼルエンジンを搭載した「XD/XD-L」をラインアップに加えたのだ。

 ジウジアーロは、ドイツ製フロックヤーン糸で織ったファブリックと本革を用いたオリジナルデザインのシート&ドアトリムを採用。アルミホイールもジウジアーロデザインのアイテムでまとめたデザイナーズコレクションだった。
 XD/XD-Lは、当時フローリアンで好評だった排気量2238ccの直列4気筒ディーゼル(73ps/14.2kg・m)を搭載した燃費指向モデル。スペック的には非力だったが、低回転域からトルクフルなディーゼルの利点を生かし、実用上は十分なパフォーマンスを実現していた。騒音も低く抑えられ、アイドリング時こそディーゼル特有のノイズが耳についたが、走行中はガソリン車と同等の静粛性がキープされていた。

「走る芸術品」を彩った快適装備群

 いすゞ117クーペは、その美しいスタイルから「走る芸術品」と呼ばれた日本初の高級スペシャルティクーペだった。それだけに装備も充実していた。スターシリーズでは、上級グレードに速度感応型パワーステアリングや、3カ所のセンサーにより希望の室内温度を維持するオートACを標準装備。ブレーキも4輪ディスク式にグレードアップする。さらに最終モデルでは、3段階に調節できる運転席ランバーサポート、ハロゲンヘッドランプ、99万9999kmまで表示する7ケタ積算オドメーター、スライド&チルト機構付き電動サンルーフを装備リストに加えた。117クーペは、デビューから1981年5月の生産終了まで、一貫して改良の手が加えられた豪華装備のスペシャルティクーペだった。

 117クーペは、欧州車的なクルマ作りで定評のあったいすゞ自動車の個性が明確に味わえる名車だった。1981年に後継車のピアッツァにバトンタッチするまで、フレッシュなイメージをキープした。大人が似合うクーペとして貴重な存在だった。