ルネッサ 【1997,1998,1999,2000,2001】
パッケージングをルネッサンスした新世代MAV
1997年10月に登場したルネッサは、日産が考える次世代ファミリーカーの理想形だった。メーカーでは「セダンとステーションワゴンとミニバンの真ん中に位置するMAV(マルチアメニティビークル)」と表現し、新しさを印象づけた。ルネッサ(R’nessa)というネーミングもパッケージングをルネッサンスする開発コンセプトに由来している。
斬新なコンセプト&ネーミングとは裏腹にルネッサのスタイリングは親しみやすかった。ちょっぴり背の高いステーションワゴンといったイメージでまとめていたのである。ドアは前後ともに通常のヒンジ式で、大型リアゲートがユーティリティの高さを連想させた程度である。ボディのスリーサイズは全長4680×全幅1765×全高1675mmと、幅は3ナンバーサイズだが、全長と高さは扱いやすい5ナンバー規格に収まっていた。
ルネッサの新しさは室内空間にあった。室内長は2100mmと余裕たっぷりで、そこに配置した2列配置のシートにさまざまな機能を持たせていたのだ。とくに光ったのは標準位置から前方に270mm、後方に300mmもロングスライドが可能なリアシートである。前方にスライドさせれば広大なラゲッジスペースが出現し、後方にスライドするとリムジンに匹敵する豊かな足元スペースが得られたのだ。しかも後席は50対50の分割式だったので左右それぞれに別個のアレンジができた。パセンジャーの好みや積み込むラゲッジの量に応じて最適な室内を作り出すことができたのである。ルネッサほど自由な室内空間を持ったクルマはそれまでになかった。
前席も工夫を凝らしていた。回転対座が可能だったのだ。遊びのフィールドなどで対座レイアウトにすると室内は瞬く間にコミュニケーションスペースに変身した。従来は大型ミニバンでしか楽しめなかったアレンジを自在に楽しめる点は大きなアドバンテージだった。トランスミッションをコラムシフトとすることで前後シート間には余分な突起がなくウォークスルーが可能だったし、フロア自体もフラットに仕上げた結果、室内空間は実に心地よかった。
パワーユニットは1998ccのSR20DE型・直列4気筒DOHC16V(140ps/19.0kg・m)を中心に、スポーツ仕様のSR20DET型・直列4気筒DOHC16Vインタークーラー付きターボ(200ps/27.0kg・m)、そしてトルクフルな2388ccのLA24DE型・直列4気筒DOHC16V(155ps/21.6kg・m)の3タイプを設定。FFモデルがSR20DE型、電子制御フルタイム4WDモデルはSR20DET型とKA24DE型を積み分けていた。車重や走りのキャラクターごとにキメ細かく最適なエンジンを設定する姿勢に開発陣の良心が現れていた。トランスミッションは全車が4速オートマチックで前述のようにコラムシフトになっていた。
ルネッサは定員5名のクルマのなかでは、ユーティリティ&快適性が群を抜いていた。ネーミングどおりの斬新なクルマと言えた。しかしルネッサがデビューした1997年には、すでにホンダのオデッセイの出現によりファミリーカーの主役は3列シートのミニバンに移行していた。トヨタからもイプサムがデビューしたことでその流れは決定的になっていた。いくら多彩なシートアレンジを誇ったルネッサでも2列シートでは新世代を名乗るには力不足だったのである。ルネッサはその価値がなかなか評価されず販売は低迷。1998年6月に派生モデルの3列シートミニバン、プレサージュが誕生すると主役はプレサージュに移行してしまう。
ルネッサは確かに斬新なコンセプトの持ち主だった。しかしデビューするタイミングがいささか悪かった。ミニバン人気が沸騰する前、あるいは落ち着いた頃にデビューしていたら、評価は違ったものになっていたに違いない。ルネッサは多彩なシートアレンジだけでなく、走行フィールの面でも大きな魅力を持っていたからだ。とくにしっかりとしたボディと入念な遮音対策がもたらす快適性は特筆レベルで、長距離クルージングで最良の面を発揮するクルマだった。ルネッサは斬新なだけでなく、走りの機能を真摯に追求したまじめな存在だったのである。