エルグランド 【2002,2003,2004,2005,2006,2007,2008,2009,2010】
“夢”と“くつろぎ”と“感動”を追及した最高級ミニバン
ミニバンの市場シェアが大いに伸びていた1990年代の後半、日産自動車は“最高級新世代1BOX”を商品コンセプトに掲げたE50型系エルグランドを市場に送り出す。当時のミニバンのユーザー指向は、かつてのセダンやハードトップ、SUVなどと同様、高級化や個性化にシフトしていた。その流れに乗って、豪華でパワフルなエルグランドの販売台数は高水準をキープ。デビューの1997年から2001年にかけて、高級ミニバンにおけるトップシェアの地位を維持し続けた。
市場で高い人気を集める一方、開発現場では次期型エルグランドの企画が鋭意、推し進められる。掲げた開発テーマは「“夢”と“くつろぎ”と“感動”を提供できる最高級ミニバン」の創出。具体的には、市場から高い評価を得ている初代のスタイリングやゆとりの室内空間、優れた走行性能などにいっそうの磨きをかけ、同時に最先端の情報技術を採用してユーザーの利便性をさらに引き上げることを目標とした。
スタイリングに関しては、見るからにエルグランドとわかり、しかも新世代を意識させるデザインを構築する。キーワードはCONFIDENCE(みなぎる自信)&NEWNESS(明快でクールなデザインテイスト)で、フロント部は大きくスラントしたノーズと二段構成のグリル&ヘッドランプで独特の存在感を主張。サイドは踏ん張り感を表現したフロントフェンダーやフェンダーと一体化したドアミラー、ボディを引き締めるキャラクターラインなどを採用する。リアビューはリアコンビネーションランプと一体化したウィンドウグラフィックによって個性を際立たせた。
ミニバンの最大の特徴となるキャビンスペースについては、LUXURY(くつろぎのあるもてなし刊)&PRACTICAL(上質で使いやすい機能)をテーマに、“ファーストクラスの室内空間”の実現を目指す。まず、初代モデルに比べてフロアのフラット化と低床化、ルーフ幅の拡大、室内長および室内幅の引き上げを実施。そのうえで、モダンカルチャーをイメージしたスタイルドシートを、後席にいくに従って着座位置が高くなるレイアウトで装着した。シートアレンジも多彩に設定する。セカンドシートはスライド量の拡大とポジションの多段化を成し遂げたことに加え、多様な機能を有するマルチセンターシートを採用。サードシートは跳ね上げポジションを後方マウントとし、3列目収納時のセカンドシートの利便性を大きく向上させた。一方、インパネは先進の表示系とスマートな操作系でアレンジし、薄型メーターおよび可動式モニターやインパネトシフト、薄型スリットベントを採用する。ほかにも、オゾンセーフデュアルエアコンやリモコンオートスライドドア、電動カーテン、フロント&リア可動式8インチワイドモニター、インテリジェントキーなどの先進アイテムを装備した。
メカニズムに関しては、“ミニバン最高峰の走行性能”を目指して各部を入念にアレンジする。搭載エンジンは連続可変バルブタイミングコントロールを組み込んだVQ35DE型3498cc・V6DOHCで、240ps/6000rpmの最高出力と36.0kg・m/3200rpmの最大トルクを発生。ここに3遊星型構造の“スーパースケルトン”や高剛性アルミダイカストハウジング、“マルチプレートロックアップ付き小型E-Flowトルクコンバータ”を採用する5M-ATx(マニュアルモード付き5速AT)を組み合わせ、スムーズで力強い加速とハイレスポンスを達成した。
サスペンションはフロントに改良版のストラット式を、リアに新開発のマルチリンク式を採用し、乗り心地や操縦性の向上を図る。さらに、制動機構には前後ベンチレーテッドディスクを奢った。先進装備も積極的に取り入れ、ビークルダイナミクスコントロール(VDC)や車間自動制御システム、電子制御トルクスプリット4WD“オールモード4×4”などを採用する。
2代目となる日産自動車のフラッグシップミニバンは、E51の型式を付けて2002年5月に市場デビューを果たす。キャッチフレーズは“Dynamic First Class ”。車種展開は2WDと4WDそれぞれに、7人乗りのXLと8人乗りのX/VG/V/ハイウェイスターを用意。搭載エンジンおよびミッションは、全車ともにVQ35DE型エンジン+5M-ATxミッションを搭載した。
市場に放たれたE51型系エルグランドは、その存在感あふれるルックスや豪華で快適な室内、そして卓越した走行性能などで高い評価を獲得する。同月にはトヨタ自動車から新フラッグシップミニバンの「アルファード」(NH10W/15W型系)が発売されたが、それでもエルグランドの注目度は決して衰えず、むしろ市場シェアの面ではエルグランドが上回る場面が多かった。
初代モデルと同様、市場での高い人気を得たE51型系エルグランド。この勢いを維持させようと、日産のスタッフは様々なアイデアを駆使した車種展開の拡充や改良を図っていく。
2002年10月にはオーテックジャパンが開発を手がけた特別仕様車の「ライダー」が登場。その2カ月後には、やはりオーテックジャパンの手によるオーダーメイド車の「VIP仕様」がラインアップに加わり、個人のみならず法人需要のショーファードリブンとしても好評を博した
。
2004年8月になると、内外装を中心としたマイナーチェンジが敢行される。エクステリアでは、フロントグリル/フロントバンパー/ヘッドランプ/フォグランプ/ドアミラー/リアバンパー/リアフィニッシャー/リアコンビネーションランプの意匠を変更。合わせて、ミスティックブラックなどの新ボディカラー5色をラインアップした。インテリアでは、フロント回りに木目調パネルをあしらったほか、照明リング付きファインビジョンメーターの装着やスイッチ類のメッキ処理、シート表地の変更、セカンドシートオットマンの採用などを実施する。また、装備面では前席アクティブヘッドレストおよびターンランプ内蔵ドアミラーの全車標準化やBOSEサウンドシステムの設定、サイドブラインドモニター/アクティブAFSの採用などを行った。
さらに、マイナーチェンジから4カ月ほどが経過した12月になると、VQ25DE型エンジン(2495cc・V6DOHC)搭載車を追加設定する。ライバルのアルファードが2.4L・直4(2AZ-FE型)だったのに対し、エルグランドは2.5L・V6だったため、ユーザーからは「ベーシック車種でも、エルグランドの方が走りは上質」と評された。
“最高級ミニバン”のキャラクターにこだわり、内外装の進化と車種ラインアップの拡充を着実に図っていったE51型系エルグランド。2010年8月には3代目となるE52型系に移行するが、E51型系が約8年の長きに渡って高い人気を維持し続けたのには、最初の商品コンセプト作りの明確さと改良の方向性の正しさがあったのである。