アスコット 【1989,1990,1991,1992.1993】
日本市場重視のミドルサルーン
1990年前後の時代、日本経済は未曾有のバブル景気に沸いていた。自動車メーカーは拡大するマーケットに対応するべく、販売チャンネルの数を増やして行く。あるメーカーでは、同時に4つの販売店系列を立ち上げるほどだった。ホンダもその例に漏れず、クリオ、ベルノ、プリモという3つの販売店系列を展開・発展することになった。その一つであったプリモ店系の専売モデルとして、1989年9月に登場したのが「ホンダ・アスコット」である(車名のアスコットは英国の著名な競馬場の名に由来する)。基本的には、アコードをベースに、ボディーパネルを若干変更したモデルであった。
シャシーやエンジンはベースとなったアコード同一だが、スタイリングは異なり、リアドアの後部に小さな固定ウィンドウを持つ6ライトのスタイルとなった。2720mmのホイールベースはこのクラスで最大であり、室内スペースの拡大に貢献している。ボディーサイズも大型である。全長4680mm、全幅1695mm、全高1390mmは、同時代のマークIIやローレルに匹敵する5ナンバーフルサイズだ。ゆったりとしたサイズはベースになったアコードがアメリカをはじめとする海外市場を重視した国際車だったからだ。また少ない手持ちシャシーで多くのライバルに対抗しようとするホンダの事情でもあった。
アスコットと同時に登場したアコードの兄弟車は、他に4ドアHTの「インスパイア」や「ビガー」などがあり、そちらは直列5気筒エンジンを縦置きとしたパーソナル指向のモデルだった。縦置きエンジンは、メインライバルの6気筒FR車と同等の上級イメージの訴求とともに、やがて登場する4WDシステムの搭載を予定したものと言われた。
アスコットは、搭載するエンジンやトランスミッションもアコードと共通で、直列4気筒エンジンをフロントに横置きとして前2輪を駆動する。エンジンのバリエーションは、1.8リッター(SOHC16バルブ)と2.0リッター(SOHC16バルブ&DOHC16バルブ)の2種があり、2.0リッター仕様の上級版にはホンダ独自の電子制御燃料噴射装置であるPGM—F1を組み合わせている。また、2次振動を打ち消すためのカウンターバランスシャフトが組み込まれ静粛性と滑らかさを磨いたのが特徴だった。トランスミッションはアスコットの全車種で4速オートマチックが選べるようになっていた。ステアリング形式はラック&ピニオンで機械式のパワーアシストが標準装備される。また、ホンダ独自開発による機械式の4輪操舵システムも装備可能だった。1987年にデビューしたプレリュードから実用化したもので、アスコットはサルーンに相応しいマイルドな味付けになっていた。サスペンションも意欲的だった。前後ともダブルウィッシュボーン/コイルスプリングの贅沢なシステムを組み込んだ。ブレーキは4輪ディスク・ブレーキ(インスパイアのみは後輪ドラム・ブレーキ)を装備する。
インテリアの基本的なデザインは全車種共通のものだが、アコードの上級車種と位置付けられる「アスコット」では、内張りやシートの表地がより上質になっていた。色調や模様なども高級感を重視したものになる。最上級のプレステージはこのクラスでは珍しく本革張りが標準になっていた。
ホンダのラグジュアリーサルーンである「レジェンド」に始まる高級車指向が、1.8〜2.0リッター・クラスにまで及んだのが、アスコット、インスパイア、ビガーなどのアコード兄弟車の登場だったが、数年後には日本のバブル景気もあえ無く崩壊、ホンダも車種整理を余儀なくされることになる。時代が求めた5ナンバー高級車。それはバブル景気の儚い夢だったのだろう。