ベレット 【1963,1964,1965,1966,1967,1968,1969,1970,1971,1972,1973】

いすゞ初のオリジナル小型サルーン

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新型スポーティサルーンの企画

 1953年2月に英国のルーツ・モーターズと技術提携し、以後ヒルマン・ミンクスをノックダウン生産して乗用車の生産・開発技術を蓄えていったいすゞ自動車。同社は1957年にヒルマン・ミンクスの完全国産化を実現すると、オリジナル設計の乗用車の開発を本格的に目指すようになる。ターゲットに据えたカテゴリーは中型車クラスと小型車クラス。中型車クラスは1961年10月発表(1962年4月発売)のベレルに結実するが、ヒルマン・ミンクスの実質的な後継モデルとなる小型車クラスの開発スケジュールはやや遅れて推移した。

 オリジナル小型車の基本骨格がようやく決まったのは1960年の初旬。その概要は①排気量が1.3〜1.6Lクラスでディーゼルエンジンも搭載する②トラックやバンなどのバリエーションを造りやすい車両レイアウトとする③将来の高速時代に対応できる性能を持たせる ④月産3000〜5000台を目標とし、しかもヒルマン・ミンクスの生産終了後すぐに藤沢工場(神奈川県)のラインに載せるなどで、社内開発コードは“SX”に決まった。

ライバル不在。技術主導の設計を貫く

 SXの開発過程では、当時のいすゞスタッフによると「国産のライバル車はあえて想定せず、技術主導で行われた」という。ボディには最新のモノコック構造を採用。またリアサスペンションには、ダイアゴナルリンクによるスイングアクスルと横置きリーフスプリングのコンペンセータを加えた独自の独立懸架を導入する。さらに、ステアリング機構にはラック&ピニオン式を、エンジンには改良版のG150型1471cc直4OHV(63ps)とC180型1764cc直4ディーゼル(50ps)を設定した。

 スタイリングについては、卵型の楕円曲面フォルムをベースにグラスエリアを広くとり、スポーティさと実用性の高さを両立させる。また、国産車としては初めてフラッシャーランプを装着した。内装では、当時の小型車で主流だったコラムシフト&ベンチシートのほか、フロアシフト&セパレートシートを設定。さらに、コラムシフト&セパレートシートの仕様もラインアップに加えた。

走りは個性的。“革命児”デビュー

 いすゞ自動車待望のオリジナル小型車は、ベレルの妹分という意味を込めた“ベレット”の車名を付けて1963年6月に発表、同年11月に発売される。ボディタイプは4ドアセダンのみで、基本グレードはデラックスとスタンダードの2タイプだったが、エンジンやミッション(最終減速比は3.778と4.111を用意)、内装バリエーションなどの組み合わせによって24種類ものモデルが選択できた。
 市場に放たれたベレットは、既存の小型車にはないスポーティなルックスや先進性に富んだメカニズムが好評を博し、たちまち人気モデルに成長する。そして、その独自のキャラクターから「日本車の革命児」と謳われた。走らせた時のフィーリングは独特で、当時のユーザーによると「四輪独立懸架の足回りによる走行安定性の高さとリニアなハンドリングは良かったが、大きめに発生するオーバーステアやタイヤの片減り、急激な操舵感など、クセも結構強かった」そうだ。

国産初のクーペフォルム“GT”の登場

 好評をもって市場に受け入れられたベレットは、デビュー後も着実に車種バリエーションの拡大やメカニズムの改良などを実施していく。
 1964年4月には、クーペタイプのボディにG160型1579cc直4OHV+SUツインキャブレター(88ps)を積み込んだ1600GTが登場。国産初のGT、通称“ベレG”として注目を集める。同年9月にはマイナーチェンジを実施し、内外装のイメージ変更やクーペボディのバリエーション拡大、G130型1325cc直4OHVエンジン(58ps)搭載車の追加設定などを実施した。

 1966年10月になると、受注生産の形でファストバックスタイルの1600GTが発表される。同時に、リアサスペンションをリーフリジットに変更したBシリーズやオートマチック仕様が追加設定された。
 ベレットの改良はまだまだ続く。1969年9月のマイナーチェンジでは、1600系のエンジンをG161型1584cc直4OHC(ツインキャブ仕様103ps/シングルキャブ仕様90ps)に変更。同時に、G161W型1584cc直4DOHCエンジン(120ps)を搭載し、強化型サスペンション&ブレーキなどを組み込んだ最強バージョンの1600GTRを発表する。1970年10月になると、新開発のG180型1817cc直4OHCエンジン(115ps)を搭載する1800GTが発売された。

 1.3〜1.8Lまでのエンジンに、ベーシックからスポーツまで様々なバリエーションを用意したベレット。しかし、1970年代に入ると最新のライバル車と比べた際の基本設計の古さが目立つようになり、販売台数も落ち込んでいく。結果的に市場デビューから10年あまりが経過した1973年9月、いすゞ初のオリジナル小型サルーンは生産を終了することとなったのである。