アヴァンシア 【1999,2000,2001,2002,2003】

快適性を真摯に追求した次世代サルーン

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プレステージサルーンの新たなカタチを提示

 1990年代後半、自動車メーカー各社は“次世代サルーン”の開発に積極的だった。21世紀を目前に控え、時代が従来の3ボックスデザインのサルーンに替わる、新たな価値を携えた次世代モデルを要求したのである。その背景には、モータリーゼーション成熟によりクルマに求められる機能が変化し、多人数乗車が可能なミニバンやラゲッジ空間の広いステーションワゴンがファミリーカーの中心となったことが影響していた。すべての機能を満遍なく盛り込んだ“中庸なサルーン”では、もはやユーザーの関心を集めることは不可能。サルーンにも新しさが求められたのである。

 1999年9月に登場したアヴァンシアは、次世代上級サルーンという命題に対するホンダからの回答だった。ホンダはオデッセイ、ステップワゴンなどで乗用車のメカニズムを利用した快適なミニバンという新たなファミリーカーの方向性を確立していた。アヴァンシアはその経験を生かし、プレステージサルーンの新たなカタチを提示した意欲作だった。

圧倒的に広く快適な室内空間で新しさを主張

 アヴァンシアは、なによりパッセンジャーの快適性を重視することで新しさを表現する。後席スペースは大人がゆったりと足が組めるほどの余裕があり、前席も実に広々としていた。しかも前席の中央に空間を設け、ミニバンのように前後席間のウォークスルーが可能だった。これによりキャビンの広いクルマで失われがちな前後席のフレンドリーな一体感を計算したのだ。アヴァンシアの個性は、後席だけでなく前後席のパセンジャー全員が最上の快適性を享受できる点にあった。もちろん快適性を高めるための装備や仕上げも入念。

 前後席それぞれに独立したエアコンアウトレットを装備すると同時に、シートにはスライド&リクライニング機能を盛り込んでいた。温もりを感じさせるファブリック素材をインスツルメントパネルや各ピラーに採用するだけでなく、ドア内側に大型の木目調ガーニッシュを装着するなど上質さの表現も見事だった。室内寸法は長さ2055×幅1480×高さ1215mmに達し、クラウンやセドリックといった従来の上級サルーンを完全に凌駕。まさにリムジンという表現が適当なゆとりを実現していた。

メカニズムはオデッセイとオーバーラップ

 スタイリングも新しい。一見するとステーションワゴンのようなビッグキャビンデザインを構築する。取り回し性を考慮した5ナンバー車なみの全長と、立体駐車場でも駐車可能な全高に抑えたサイズのなかで、前述のゆとりあるキャビン空間を実現するには合理的なプロポーションを必要とした。アヴァンシアのデザイナーは、その難しい仕事を見事にやり切った。アヴァンシアはサルーンという言葉から連想するフォーマルなイメージこそ薄かったが、新鮮さと上質感が巧みに融合したスタイリングの持ち主だった。

 メカニズムはオデッセイをベースにリファインが加えられており、パワーユニットは排気量2253ccの直列4気筒OHC16V(150ps/21kg・m)と、2997ccのV型6気筒OHC24V(215ps・27.7kg・m)の2種をフロントに横置きに搭載。トランスミッションは全車ATで、4気筒版が4速、V型6気筒版は5速タイプとなっていた。駆動方式はFFと4WDの2種から選べ、4WD仕様はエクステリア各部が専用デザインとなっていた。サスペンションは前後ともダブルウィッシュボーン式である。
 アヴァンシアのキャラクターを考えるとシルキーでパワフルなV型6気筒版が最適なチョイスだったが、4気筒版でもパフォーマンスは十分で、しかも静粛性もハイレベルに仕上げられていた。上級サルーンを標榜するクルマだけに走りのポテンシャルも高かったのである。

 アヴァンシアは、ホンダならでは独創の発想が存分に生かされた新世代サルーンだった。クルマとしての完成度は実に高く、ユーザーに深い満足感を与えるクルマと言えた。しかし斬新なものほど、ユーザーの理解を得るために相応の時間を必要とする。販売成績は残念ながら好調とは言い難かった。違いの分かる個性派には大いに評価されたが、多くのユーザーにはアヴァンシアの真の魅力が伝わらなかった。残念なことである。