サニー・カリフォルニア 【1981,1982,1983,1984,1985】
ユーティリティを磨いたFFミニワゴン
トヨタ・カローラ、VWゴルフに次ぐ世界のベストセラーカーであるサニーは1981年10月に登場した5代目(B11型)でFFレイアウトに大変身した。FFへの変身は時代が求めるスペースユーティリティや経済性、走りを実現するためのチャレンジだった。従来以上にワールドワイドで愛されるために全機能を刷新したのである。
セダン、クーペ、カリフォルニア(5ドアワゴン)のラインアップのうち、最もFFレイアウトによる恩恵を受けたのがカリフォルニアだった。カリフォルニアは先代のB310型から設定されたスタイリッシュなコンパクトワゴンである。FRレイアウトだったB310型ではクーペ派生のユーティリティカーというイメージでまとめられていた。そのため後席は折り畳めたものの荷室スペースはそれほど広くはなく、ユーティリティはそれなりのレベルに留まっていた。
しかしFFに変身したB11型は、メカニカルコンポーネンツの最適配置によって広い荷室を実現する。FFの効果は絶大だった。ラゲッジフロア自体が低くなり後輪のホイールハウスも小さくなった。後席を立てた状態でも十分な広さがあり、後席を折り畳むとワゴンと呼ぶに相応しいフラットで広大なフリースペースが出現したのである。B11型カリフォルニアのユーティリティはレジャーユースはもちろん、ビジネスユースにも十分に対応できるレベルに到達していた。
高い実用性が、カリフォルニアの個性であるスタイリッシュなスタイリングと両立していた点が魅力だった。ぐっと寝かしたリアピラーと広いグラスエリアが織りなすプロポーションは伸びやかで、風洞で入念に吟味されていたこともあり空力特性にも優れていた。オプションでアメリカンワゴンの伝統であるウッドサイドパネルを装着すると、お洒落に仕上げられた。
先代のB310型では特別な存在だったカリフォルニアは、FFのB11型になってセダンと並ぶメジャーな存在へと進化する。それを裏付けるのがラインアップの充実だった。1981年10月の登場時は、1487ccユニット(E15型キャブレター仕様85ps/E15E型インジェクション仕様95ps)だけだったが、翌1982年1月には経済的な1270ccユニット(E13型キャブレター仕様75ps)を追加し、さらに1982年10月には燃費に優れた1680ccディーゼル(C17D型55ps)を加える。好評に応えてユーザーの幅広いニーズに応える設定としたのだ。とくにディーゼル仕様は32.2km/L(60km/h定地走行)の圧倒的な燃費を誇り、ロングクルーズでも信頼の置ける相棒だった。もともと経済性の高さで定評のあるサニーだったが、ディーゼル仕様はその名声に一段と磨きをかけたのだ。
カリフォルニアは高いユーティリティの持ち主であると同時に快適なクルマでもあった。主力グレードのSGLグレードでは、熱線リアウィンドー&リアワイパー、水晶発振式デジタル時計、FM付きマルチラジオ、パワーステアリング(AT車)、エア式ランバーサポート、電動リモコンミラーなどをすべて標準装備する。静粛性にも気が配られ、ダッシュフロアとリアフロアには遮音材を挟み込んだサンドイッチ鋼板を採用しひとクラス上のモデルと同等の静かさを獲得していた。シートはドイツ車を参考にした高弾性&高密度ウレタンを採用した大型サイズを奢って、長距離クルーズでも疲れが少なかった。
優れたユーティリティと高い経済性、そして快適性を高い次元に仕上げ、FFレイアウトが生む走行安定性を身に付けたB11型サニー・カリフォルニアは実用車のひとつの理想形と言えた。好調な販売セールスを記録したのは、高い実力の裏付けがあったからだった。
サニー・カリフォルニアのネーミングは日本専用だった。日本と並ぶ主力市場のアメリカでは素直に“ワゴン”のネーミングを冠していた。なぜ日本はワゴンを名乗らなかったのか? それは当時の日本ではワゴンに対してプラスのイメージがなかったからである。商用車であるバン派生の“仕事クルマ”の印象が強かったのだ。
だからこそ日本では、自由なライフスタイルで若者層の憧れを集めていた“カリフォルニア”を名乗ったのである。ちなみに憧れの地名を車名とするのは世界的に一般的な傾向。シボレーやランチアには、かつて“モンテカルロ”の名を冠したパーソナルカーが存在したし、自動デタッチャブルルーフを持つV8・FRフェラーリは“カリフォルニア”が正式車名だ。