AX 【1986,1987,1988,1989,1990,1991,1992,1993,1994,1995,1996,1997,1998】

ダブルシェブロンの小粋なコンパクトカー

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ビザの後継を担う新世代コンパクトカーを企画

 1976年にプジョー社との企業グループとなるPSAプジョー・シトロエン(現グループPSA)を構成し、以後、基本コンポーネントの共用化を図って生産効率が向上したシトロエン社。1976年にLNを、1978年にLNAとビザ(Visa)を発売して好評を博していた。しかし1980年代中ごろになるとLN/LNA/ビザはプジョー104(1972年デビュー)をベースとするがゆえの基本設計の古さが目立ちはじめ、競争力は急速に低下した。

 量販が見込めるコンパクトカークラスを、早急に新世代に切り替える必要がある--。そう判断したシトロエンの首脳陣および開発陣は、1983年に新しいコンパクトカーの開発プロジェクトを本格的にスタートさせる。基本コンポーネントとして選んだのは、プショーの新世代Bセグメント車である205(1983年デビュー)のプラットフォームおよびシャシー。ただし、ビザの後継車を意図したことから、車格は205より1クラス下に据える方針を打ち出した。

「AX」の車名を冠して市場デビュー

 シトロエンの新世代コンパクトカーは“Revolutionnaire(革命的)”というスローガンのもと、「AX」の車名を冠して1986年開催のパリ・サロンの舞台で発表される。基本骨格は205用プラットフォームのホイールベースを140mmほど短縮(2280mm)したうえで、複合材を前後バンパー/フロントグリル/カウルグリル/リアゲートなどに、高張力鋼板をボディマウント基部/クロスメンバー/バンパーブラケットなどに、亜鉛メッキ鋼板をボンネット/ドア/フェンダーなどに採用した新設計の軽量高剛性モノコックボディで仕立てる。

ボディタイプは3ドアハッチバックで構成。懸架機構はフロントにL型ロアアームを配したマクファーソンストラット/コイルを、リアにニードルベアリングを介してクロスメンバーと接合したトレーリングアーム/横置きトーションバーをセットした。操舵機構はラック&ピニオン式で、操作性の向上を狙ってステアリングラックをバルクヘッド上部に配置。ロック・トゥ・ロックは3.5または3.15回転に設定する。制動機構はバキュームサーボアシストにデュアルサーキット系統を採用した前ディスク/後ドラムを組み込んだ。

 搭載エンジンは新設計のTU型系954cc(45hp)/1124cc(55hp)/1360cc(65hp)の直列4気筒OHCガソリンユニットでスタート。シリンダーブロックはアルミ合金製のハーフスカート型で、クランクキャップをケースと一体化したインテグレートクランクケースを採用する。駆動システムはFF。エンジンと一直線に横置きするギアボックスには、4速MTと5速MTを設定した。

バリエーション拡充。さらに人気アップ!

 エクステリアに関しては、短くて低いフロントノーズに綿密な計算を施して傾斜角を決めた前後ピラー&ウィンドウ、滑らかなルーフライン、徹底したフラッシュサーフェス化などにより、Cd値(空気抵抗係数)0.31というエアロダイナミックフォルムを構築する。インテリアは、人間工学に基づいてスイッチや計器盤、シート形状、乗車ポジションなどをアレンジしたことが訴求点。外観から想像するよりもワイドな視界や広い後席スペースなどもAXの特長だった。

 ダブルシェブロンの新世代コンパクトカーは、スタイリッシュな外観や実用性に富むキャビンルーム、レスポンスのいいエンジン、快適な乗り心地、軽量さ(ベースモデルのAX10Eで640kg)を活かした優れた燃費などが高く評価され、販売台数を大きく伸ばしていく。この人気をさらに高めようと、シトロエン社は精力的に車種ラインアップを拡充していった。
 1987年1月には、2シーターバン仕様のAX Entreprise(アントレプリーズ)を発売。3月には、モータスポーツのホモロゲーションモデルとなるAX Sport(スポルト)をリリースする。装備類を簡素化して軽量に仕立てたボディに、TU型系1294cc直列4気筒OHCガソリンエンジン+ツインチョークキャブレター×2(95hp)のパワートレインを搭載したスポルトは、ラリーなどを中心に大いに活躍した。

高性能バージョン「GT」の登場

 AXシリーズには、1987年9月に高い実用性を備えた5ドアハッチバックが登場。そして10月には、高性能バージョンのAX GTがデビューする。ボディタイプは3ドアハッチバックで、エンジンにはツインチョークキャブレターを組み合わせたうえでチューニングを変更したTU型系1360cc直列4気筒OHCガソリンユニット(85hp)を採用。トランスミッションには専用ギア比の5速MTをセットし、高性能化に合わせて足回りも強化した。内外装にも専用パーツを豊富に設定。外装ではリアスポイラーや165/65R13タイヤ+アロイホイール、フロントフォグランプなどを、内装ではスポーツステアリングやバケットシートなどを装備していた。

 1988年になると、経済性に優れるTUD3型1360cc直列4気筒OHCディーゼルエンジン(53hp)を搭載した3ドア/5ドアハッチバックモデルを追加する。1989年からは日本への導入も始まり、3ドアのGTと5ドアの14TRSをラインアップ。1990年には一部のTU型系1360cc直列4気筒OHCガソリンユニットの燃料供給装置にモノポイントインジェクションが採用され、最高出力は75hpとなった。

1991年にはフェイスリフトを実施

 1991年になると、大がかりなマイナーチェンジが実施される。最も大きく変わったのは内装デザインで、質感が向上したインパネやドアトリム、握り心地および操作性の改善を図ったステアリング、より見栄えが増したカラーリングなどで新鮮味をアップ。一方、外装では前後バンパーとリアゲートの刷新やフロントのダブルシェブロンエンブレムの移設(ボンネット前端左→前端中央)などを行った。

 このマイナーチェンジと同時に、車種ラインアップも拡充される。新規に設定したのは2モデル。GTiと4×4だ。GTiは既存のGTをさらに高性能化した旗艦グレードで、搭載エンジンにはマルチポイントインジェクションを組み込んだ鋳鉄ブロックのTU型系1360cc直列4気筒OHCガソリンユニット(100hp)を採用する。また、パワーアップに即して足回りの見直しも実施。ホイールには4穴タイプのアルミ製、タイヤには185/60R13サイズを装備した。一方で4×4はダートや雪道などの走破性を向上させたモデルで、駆動機構にはセンターデフ付フルタイム4WDシステムをセット。搭載エンジンにはキャブレター仕様のTU型系1360cc直列4気筒OHCガソリンユニットを採用していた。
 1993年にはガソリンエンジンの燃料供給装置が全車インジェクション化される。1994年になると、TUD5型1527cc直列4気筒OHCディーゼルエンジン(58hp)を搭載したモデルが登場。さらに1995年には、電気自動車のAX Electricをリリースした。

約12年のモデルライフで242万台超を生産

 1996年になると、AXの実質的な後継を担う新コンパクトカーのサクソ(SAXO。日本では当初“シャンソン”の車名で発売。後に本国と同名のサクソに切り替わる)が市場デビューを果たす。しかし、AXの生産はすぐには中止されなかった。サクソがより大きくて高品質になり、しかも車両価格が高くなっていたため、AXはラインアップを縮小しながらシトロエンのボトムラインを支えるエントリーモデルとして販売が継続されたのである。また、サクソを含む新世代コンパクトカー群との比較によってAXが再評価。“less is more”と称する車両哲学に基づいた軽量なボディやシンプルな内外装、そしてキビキビとしたフレンチコンパクトらしい走りなどが、ユーザーから見直されたのだ。

 最終的にAXは、1998年まで生産ラインに乗り続ける。総生産台数は242万4808台。LNAやビザを大きく上回り、かつ当時のシトロエン・ブランド最高の2CVの386万8634台に次ぐ台数を記録したのである。