ギャラン 【1996,1997,1998,1999,2000,2001,2002,2003,2004,2005】
GDIエンジンを採用した“高密度スポーツセダン”
ステーションワゴンやSUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)といった、いわゆるRV(レクリエーショナル・ビークル)が人気を集めた1990年代前半の日本の自動車市場。一方でファミリーカーの定番であるセダンモデルは、存在感が希薄になりつつあった。
1990年代後半に向けて、セダンの復権を図るには−−。第8世代となる次期型ギャランのプロジェクトを推し進めていた三菱自工の開発チームは、ここで原点回帰、具体的には“ギャランらしさ”をもう1度見つめ直す作業を行う。フランス語で“洗練”や“華麗”、“勇ましい”を意味する「GARANT」は、スポーティで斬新なスタイルと快適な室内空間を有したうえで、高性能かつ信頼性の高いメカニズムに裏打ちされた卓越した走りを演じるクルマ、が本来の個性だった。開発陣はこの伝統を再構築し、同時に最新の環境性能や安全性能を付加する方針を打ち出す。商品コンセプトとしては、“高密度スポーツセダン”とした。
1996年8月、8代目となるEA/EC型系ギャランが新型ステーションワゴンの「レグナム」とともに市場デビューを果たす。最大のトピックは、空気だけを多量に吸入させたシリンダー内にガソリンを直接噴射する「筒内噴射ガソリンエンジン」を採用したことだった。
“GDI”(Gasoline Direct Injection)と称する筒内噴射ガソリンエンジンには、シリンダー内の空気の流れを制御する直立吸気ポートや空気の流れと燃焼を制御する湾曲頂面ピストン、そして噴霧の微粒化と分散を制御する高圧スワールインジェクターや高圧燃料ポンプなどが組み込まれる。実際の燃焼は、まず吸気段階でシリンダー内に空気だけを吸入→直立吸気ポートによって強い下降流が生まれ、湾曲頂面ピストンの形状と相まって、これまでのエンジンとは逆向きの強いタンブル旋回流を形成→圧縮段階で、このタンブル流がより強められたところに、高圧スワールインジェクターにより微粒化されたガソリンを直接噴射→ガソリンはタンブル流と湾曲頂面ピストンにより、拡散することなく素早く気化→燃焼しやすい層状を保ちながら点火プラグ周辺に混合気が集まり、力強く燃焼、という行程を経る。これにより空燃比(空気と燃料の質量比)40:1という従来のガソリンエンジンの半分以下の薄い混合気で、安定した燃焼を実現した。GDIを組み込む4G93型1834cc直4DOHC16Vユニットは、10・15モード走行燃費が約35%も向上する。また、トルクと出力ともにほぼ全域に渡って約10%アップし、さらにCO2の排出量にいたっては約35%もの削減を成し遂げた。
動力源は4G93型GDIのほかに6A12型1998cc・V6OHCや6A13型2498cc・V6OHC、さらに6A13型にDOHCヘッドとツインターボ機構を組み込んだ強力ユニットをラインアップする。組み合わせるミッションは、4/5速のINVECS-IIスポーツモードATと5速MT。懸架機構には改良版の4輪マルチリンクを採用した。
市場に放たれた8代目ギャランは、アグレッシブなルックスでも注目を集める。逆スラントした強面のフロントマスクにコーナー部のダイヤモンドノーズカット、抑揚のあるボディライン、そして派手めのエアロパーツなどが、ユーザーの目を惹きつけたのだ。また、ツインターボエンジンを搭載するVR-4系に組み込まれたAYC(アクティブ・ヨー・コントロールシステム)やASC(アクティブ・スタビリティ・コントロールシステム)といった先進機構も脚光を浴びた。
当時の三菱自工の最新技術を結集し、華やかにデビューした8代目ギャラン。しかし、販売面では苦戦を強いられた。多くのユーザーの興味は、やはりセダンよりもRVに向けられたのである。
販売成績を伸ばそうと、開発陣はギャランに様々な改良を施す。1997年9月にはGDIエンジンの実用域での動力性能を引き上げるとともに、MMCS(三菱マルチコミュニケーションシステム)の機能向上を敢行。1998年8月にはマイナーチェンジを行って内外装の意匠をリフレッシュし、さらに4G64型2350cc直4DOHCのGDIエンジンを積む新シリーズを追加した。2000年5月になると、ベーシックエンジンの4G93型GDIを1999ccにまで排気量アップ(4G94型GDI)し、同時に側面衝突安全性の強化などを図った。
三菱自工は1997年10月開催の第32回東京モーターショーにおいて、エアロパーツをフル装備した「ギャラン・スーパーVR-4」を雛壇に上げる。三菱のスポーツモデルらしい迫力満点のルックスに仕立てられた参考出品車は、その完成度の高さから「いつ発売されるの?」と問う来場者が続出した。
三菱車ファンの期待は、ショーから3カ月ほどが経過した1998年1月になって現実のものとなる。既存のギャランVR-4タイプSをベースにスポーツ装備を満載した特別仕様車の「ギャラン・スーパーVR-4」がリリースされたのだ。専用のスポーツアイテムは多岐にわたる。外装ではフロントエアダム//サイドエアダム/リアエアダム/リアスポイラー/カラーコーディネートヘッドランプ/BSポテンザRE710kaiタイヤ/ラリーアート製マフラーなどを装着し。内装では、ブラック&レッドの専用カラーでステアリングやシフトノブ、フロアカーペット等を統一したうえで、レカロ製バケットシート/モモ製本革巻きステアリング/チタンメッキ仕上げATパネル/カーボン調センターパネル/専用カラードハイコントラストメーターなどを配してスポーツドライビングの楽しさを演出した。ベース車比で19万5000円プラス(328万9000円)という、装備内容を考えると非常にお買い得感の高いプライスタグを掲げたギャラン・スーパーVR-4は、たちまち三菱車ファンの心をつかみ、スポーツ派の憧れのモデルとなった。