ランサー・フィオーレ 【1983,1984,1985,1986,1987,1988】

ミラージュから生まれたカジュアルなFFランサー

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マーケティングの要請から誕生したFFサルーン

 ランサー・フィオーレは1983年10月に2代目モデルに進化した。ランサー・フィオーレは“ランサー”を名乗るもののミラージュから派生したカジュアルサルーンだった。三菱ギャラン系販売ディーラー用に企画されたミラージュで、ミラージュとの相違点はフロントグリルの意匠などの細部のみ。実質的には同一モデルだった。ランサー・フィオーレにはハッチバックモデルがなく、ボディタイプは4ドアセダンのみというのがミラージュとの最大の違いだった。フィオーレ(Fiore)というネーミングはイタリア語で花を意味していた。

 ランサー・フィオーレはマーケティングの要請から誕生したモデルだった。1980年前半はスペース効率に優れたFFレイアウトが先進車と見なされていた。しかし1979年に誕生した本家のランサーであるランサーEXは、FRレイアウトで、当面モデルチェンジの計画はなかった。ランサーEXは広い室内とナチュラルな操縦性を持つ三菱らしい良質な小型サルーンだった。とはいえFFに大変身したカローラやサニーなどのライバルと対抗するには、ちょっぴり新鮮味に欠けていた。

 三菱ギャラン系ディーラーからは、カローラやサニーと真っ向勝負のできる、しかも三菱の先進性を表現したFFモデルを要求する声が上がる。その声に応えたのがランサー・フィオーレだったのだ。2代目はミラージュのモデルチェンジとタイミングを合わせ、初代から僅か1年8ヵ月後に登場した。

広い室内を持つ機能的なエアロデザイン採用

 2代目の魅力は、欧州車フィーリングのクリーンなスタイリングにあった。シャープな直線基調のスタイリングは、カローラやサニーとは別種のお洒落な雰囲気を持っていた。しかもクラス水準を抜く0.38のCd値を実現するなど高い機能性に裏打ちされていることに価値があった。サイドカットオープニングフードや、セミコンシールドワイパー、プレスドアなどの採用によりフラッシュサーフェス設計を徹底。100km/h巡航時で67dBの静粛性を身に付けた点も特徴だった。ボディのきめ細かい空力設計により高速時の不快な風切り音を抑制した結果だった。

 FFレイアウトの採用でスペース効率に優れていたのもセールスポイントだった。ボディサイズは全長4125×全幅1635×全高1360mmと比較的コンパクトだったが、室内長は1860mmと余裕たっぷり。大人5名が無理なく座れる室内空間を実現していた。大きなトランクスペースも自慢で、容量は320L。上級グレードでは可倒式リアシートバックが採用され、かさばる荷物も無理なく積み込むことができた。またトランク下部のスペアタイヤスペースの後方にメンテナンス用品などが収納できるサブトランクを用意するなど気配りも万全だった。

4種のエンジンが選べた多彩なバリエーション

 バリエーションは多彩だった。エンジンはガソリンが3種、ディーゼル1種の計4タイプから選べた。ベーシックエンジンは1298ccのG13B型でパワースペックは77ps/5500rpm、11.0kg・m/3500rpm。主力となるのは87ps/5500rpm、12.5kg・m/3500rpmの1468ccのG15B型で、CGグレードにはクルマの走行状態に応じて2気筒を休止し燃費を高めるMD機構を組み込んでいた。

 ホットな走りを披露したのは1597ccのG32B型ターボだ。120ps/5500rpmの最高出力もさることながら17.5kg・m/3000rpmの太いトルクがシャープな加速の源泉となった。経済性を重視するユーザーに向けた1795ccの4D65型ディーゼルも魅力的だった。65ps/4500rpm、11.5kg・m/2500rpmのパワースペックは平均的だったが燃費は60km/h定地走行データで32.2km/Lをマークし、徹底した振動騒音対策によりガソリンエンジンと同等の静粛性を身に付けていた。

 2代目ランサー・フィオーレは、内容の濃いコンパクトサルーンだった。しかし残念なことに販売成績はさほど目覚ましいレベルとは言えなかった。ミラージュとの差が少なかった、カローラやサニーよりひとまわり小柄に見えたなど、さまざまな原因が指摘された。クルマとしての完成度が高かったことは間違いのない事実だったのだが、誕生の経緯が販売に影を落としたのかもしれない。

フィオーレもGSRターボで豪快さを表現

 国際ラリーでも大活躍した初代以来、ランサーのアイデンティティはスポーティな走りだった。ミラージュの派生車種であるランサー・フィオーレもランサーの一員だけに走りにはこだわっていた。

 2代目は最強グレードとして1597ccのG32B型ターボユニット(120ps/17.5kg・m)を搭載するGSRターボを設定。車重885kgの軽量ボディにより僅か7.38kg/psの良好なパワーウェイトレシオを誇り豪快な加速を披露する。前後にスタビライザーを配したスポーツサスペンションによりフットワークも俊敏だった。大人しい印象のエクステリアからは想像できない刺激的な走りで、三菱版“羊の皮を被った狼”としてマニアから愛された。